119 損益通算とは

2023年7月17日

所得税の確定申告を行う際には、事業所得や不動産所得、譲渡所得などさまざまな所得を合計して最終的な所得税額を計算します。
所得税の確定申告にあたり、赤字がある場合に赤字が出た所得から、他の黒字となっている所得を相殺することが出来る損益通算というものがあります。
今回は、損益通算とは具体的にどういったものなのかを以下で解説していきたいと思います。

◆損益通算とは

損益通算とは、各種所得の中では相殺しきれず、所得金額に損失が生じているものがある場合に、特定の所得の損失についてのみ、その損失を他の所得から一定の順序に従って差し引くことをいいます。
なお、各種所得の金額の計算上生じた損失の中には、損益通算になじまないものがありますし、また、所得の性質の似た種類の所得グループにおいてまず損益通算し、次いでその他の種類の所得に損益通算をしていくのが合理的であるとも考えられますので、所得税法では、損益通算のできるものの範囲やルールが設けられています。
なお、損益通算は損益通算が出来る損失と出来ない損失に区分されております。
・損益通算が出来る損失
①不動産所得
②事業所得
③譲渡所得(総合課税の譲渡による損失、居住用財産の買い替え等の場合の譲渡損失、特定居住用財産の譲渡損失に限る)
④山林所得

・損益通算が出来ない損失
①配当所得
②一時所得
③雑所得
④給与所得
⑤個人に対する資産の低額譲渡により生じた損失
⑥競走馬(事業用は除く)、別荘、書画、骨董、貴金属等の生活に通常必要でない資産についての所得の計算上生じた損失
⑦非課税所得の金額の計算上生じた損失
⑧土地建物等の譲渡による分離課税の譲渡所得の金額の計算上生じた損失
⑨株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上生じた損失(ただし上場株式等の譲渡損失については、申告分離課税を選択した上場株式等の配当所得とのみ損益通算可能)
⑩先物取引に係る雑所得等の金額の計算上生じた損失

◆損益通算の順序

損益通算の順序は、総所得金額を構成する8つの所得を次の2つのグループに区分します。
①経常所得グループ
事業所得、不動産所得、利子所得、配当所得、給与所得、雑所得
②譲渡、一時所得グループ
譲渡所得、一時所得
上記2つのグループを分けたら、まずはグループ内で損益通算を行います。
次にそれぞれのグループのいずれかに損失の金額が残っている場合には、さらに2つのグループ間の損益通算を行います。
譲渡、一時所得グループの損失の金額を経常所得グループの所得の金額から差し引く場合は、譲渡、一時所得グループの損失の金額をそのまま差し引きます。
それに対し、経常所得グループの損失の額を譲渡、一時所得グループの所得金額から差し引く場合は、譲渡所得→ 一時所得の順番で損益通算を行っていきます。
なお譲渡、一時所得グループの譲渡所得の金額の中に短期譲渡所得の金額と長期譲渡所得の金額とがある場合には、まずは短期譲渡所得の金額から差し引きます。
また、総合課税の長期譲渡所得、一時所得は2分の1をする前の所得金額が損益通算の対象になります。
それでもまだ損失の金額がある場合には、山林所得の金額→退職所得の金額から順次差し引くことになります。

◆損益通算の具体例

上記解説した内容から、以下では具体例を挙げて損益通算について紹介したいと思います。
➀事業所得の赤字と給与所得の黒字がある場合
例えば、会社員を辞めて、個人事業主として開業をした年度において、給与所得は500万円あり、事業所得は△250万円の赤字である場合は、下記算式より総合所得は250万円となります。
給与所得500万円-事業所得250万円=250万円

②事業所得の黒字と不動産所得の赤字がある場合
賃貸用マンションを購入し、不動産所得の赤字が△500万円あり、一方で事業所得は黒字5,000万円ある場合には、下記算式より総合所得は4,500万円となります。
事業所得5,000万円-不動産所得500万円=4,500万円
③給与所得の黒字と雑所得の赤字がある場合
会社員として給与所得が1,000万円あり、会社員の他に副業を行っているが、副業の方では経費がかさんでしまい、雑所得△200万円の赤字となっている場合には、総合所得は1,000万円となります。
この場合には、雑所得の△200万円の赤字は損益通算することが出来ません。
上述したように損益通算できる損失は、不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得から発生した損失に限定されているので、雑所得から生じた損失については損益通算をすることは出来ません。
よって、このような場合の総合所得は、給与所得である1,000万円となります。
なお、雑所得は20万円以下であれば確定申告が不要です。

◆結論

以上が損益通算の解説となります。
損益通算を知っていれば他の所得で大きく黒字となっていても、損益通算をすることによって所得税の納税額を低く抑えることが可能です。
そのため、いくつか所得がある場合に、この所得は赤字だったから確定申告から除外するといった事はせずに、必ずすべての所得を漏れなく確定申告するようにしましょう。