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164 法人税法上の交際費とは?損金算入は、いくらまでできるのか

法人が交際費を使用する場合、損金に算入できる金額には、制限があります。企業の経理においても、交際費になるもの、そうでないものの判定というのは、非常に重要です。
では、交際費とは、「そもそもどういったものが対象となるか」「いくらまで、損金に算入できるのか」こうした疑問が生じると思います。
本記事では、法人の交際費と課税関係について、記載をいたします。

●交際費の定義と損金不算入額について

交際費の損金不算入は、法人が交際費を乱用しないための抑制規定です。交際費の定義、損金算入限度額について、以下に詳細を記載いたします。

・法人税法上における交際費の定義とは?

そもそも、交際費とは、何を指すのでしょうか、交際費とは、その名称どおり、接待飲食や贈答品、慰安などを取引先や仕入先に対し、おこなうものです。
ただし、贈答品であっても、毎年配布する自社のカレンダーや手帳などは、広告宣伝費という扱いになり、交際費には該当しないものになります。

・交際費のなかの接待飲食費とは?

交際費は支出交際費と接待飲食費にわかれます。接待飲食費とは、一人あたり、5,000円超の飲食を指します。一人あたり、5,000円以下のものは、会議費などで処理がされます。
取引先と一人あたり、1万円の食事をした。100万円で店を貸し切り、参加人数100人で飲食をしたなど、一人あたり、5,000円超の場合は、接待飲食費に該当します。
経理の実務の視点であれば、交際費が接待飲食費に該当をするのか、その他の交際費(支出交際費)に該当をするのかということを仕訳時に区分をしておく必要があります。

・損金不算入額は、どう判定をするか

交際費の損金算入限度額を定めるときは、まず、法人の資本金が1億円以下か1億円を超えるのかで、区分されます。
1億円以下の場合は、800万円か接待飲食費の多い額です。言い換えれば、800万円までは、交際費を使用しても、全額損金とすることができます。
一方、1億円超の場合、損金不算入額は、交際費の額 - 接待飲食費×50パーセントとなります。
したがって、すべて損金になることは、ありません。
資本金が1億円以下か1億円超かというのは、法人税率など、他にも判定の有利不利になる基準がいくつかあります。税務の視点であれば、資本金を1億円超にするのは、相当な理由があった場合にのみしたほうがよいということになります。
なお、資本金が100億円超の法人の交際費は全額損金不算入となります。

●まとめ

本記事では、交際費と課税関係について記載をしました。交際費は接待飲食費とその他の交際費にわかれます。また、損金算入額も資本金が1億円以下と1億円超で計算が変わります。
交際費というのは、取引先と友好的な関係を築くために必要な費用ですが、こういった税制があるということも覚えておきましょう。

163 確定申告完了後も要保存!帳簿の保存期間

確定申告を行うために必要となった書類は、確定申告完了後も保存の義務があります。確定申告の内容を税務署等に尋ねられた場合や、税務調査を受ける場合に、申告内容の証拠書類として必要となるためです。
それでは、どの程度の期間の保存が必要なのでしょうか。今回は確定申告にかかる帳簿の保存期間についてご紹介を致します。

1青色申告の場合

青色申告で確定申告を行っている人の保存すべき書類と、その保存すべき期間は、下記のとおりです。また、保存期間の開始日は、申告対象の年の確定申告書の提出期限の翌日です。
①帳簿
仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳等…7年間
②書類
・損益計算書、貸借対照表、棚卸表等の決算関係書類…7年間
・領収証、小切手控、預金通帳、借用証等の現金預金取引等関係書類…7年間
・取引に関して作成し、又は受領した請求書、見積書、契約書、納品書、送り状等の上記以外の書類…5年間

2白色申告の場合

白色申告で確定申告を行っている人の保存すべき書類と、その保存すべき期間は、下記のとおりです。また、保存期間の開始日は、申告対象の年の確定申告書の提出期限の翌日です。
①帳簿
・収入金額や必要経費を記載した帳簿である法定帳簿…7年間
・業務に関して作成した上記以外の帳簿である任意帳簿…5年間
②書類
・決算に関して作成した棚卸表その他の書類…5年間
・業務に関して作成し、又は受領した請求書、納品書、送り状、領収書等の書類…5年間

3課税事業者の場合

青色申告者や白色申告者が消費税の納税義務のある課税事業者に該当する場合には、申告対象となる年の末日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間、事業者の納税地またはその事業に係る事務所等で帳簿類を保存する必要があります。

4書類の保存期間が5年や7年である理由

書類の保存は、税務署に内容を尋ねられた際に、申告内容の証明をするために必要となります。
その保存期間が5年や7年である理由は、税務調査によって調査を受ける申告内容は3年、5年、7年分のいずれかの期間分であるためです。
原則として税務調査が行われる期間は3年分ですが、申告内容の間違いや否認が税務調査内で見つかった場合には、5年分まで遡求されることがあります。
更に、明らかな仮装や隠ぺい等の不正が疑われる場合には、7年分まで遡求されることもあります。
このように確定申告内容は、最大7年間分、税務調査により遡求される可能性があることから、書類の保存期間も同様の期間を求められています。

5まとめ

確定申告に係る書類の多くの保存すべき期間は7年間です。保存すべき書類の判断や保存方法等にお困りの際には、税務署や身近な専門家にご相談されることをおすすめ致します。

162 令和5年度税制改正の目玉!新NISA制度とは

令和5年度税制改正により、令和6年からこれまでの旧NISA制度を拡充した新NISA制度が開始されることとなりました。
新NISA制度は、資産が投資に向かうことへの後押しとして非常に効果的なものであると考えられています。
それでは、新NISA制度とは、どのような制度なのかについて、ご紹介を致します。

1NISA制度とは

NISA制度とは、投資による利益に対する所得税の非課税措置である、少額投資非課税制度のことです。

NISA制度を適用せずに株式や投資信託から利益を得た場合、その利益の20.315%の所得税を納める必要がありますが、NISA制度を適用することで、所得税を納める必要が無くなるため、投資を行う人にとって重要な節税対策になります。

2旧NISA制度と新NISA制度の違い

旧NISA制度では一般NISA、つみたてNISA、ジュニアNISAの取引枠がありましたが、新NISA制度ではジュニアNISAが廃止され、一般NISAが成長投資枠に、つみたてNISAがつみたてNISA枠に移行します。

取引枠が変化すると共に、様々な点で拡充が行われます。旧NISA制度と新NISA制度の特徴は、下記の通りです。

・旧NISA制度

・新NISA制度
※金融庁ホームページより引用
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/about/nisa2024/index.html

3新NISA制度で注目すべきポイント3選

旧NISA制度から拡充したポイントとして、主なものを3つご紹介を致します。
①取引枠の併用
旧NISA制度の取引枠のつみたてNISAと一般NISAは、どちらかを選択して利用する必要がありましたが、新NISA制度の取引枠の成長投資枠とつみたて投資枠は、これを併用することができます。

併用が可能であることから、それぞれの取引枠の利用や、それぞれの取引枠に適応した金融商品の選択することが可能になり、投資の幅が広がります。

②非課税投資額の拡充
旧NISA制度の年間投資額は非課税となる最大年間投資額は120万円でしたが、新NISA制度では取引枠を併用することができるため、非課税となる最大年間投資額は360万円となります。

また、旧NISA制度では、生涯非課税限度額の定めが無いものの、一般NISAの年間投資額120万円を非課税で保有できる期間が5年、つみたてNISAの年間投資額40万円を非課税で保有できる期間が20年と定められていることから、実質的な非課税限度額はそれぞれ600万円と800万円でした。
一方で新NISA制度の生涯非課税限度額は、成長投資枠では1,200万円、つみたて投資枠では1,800万円です

非課税となる最大年間投資金額及び生涯非課税限度額が拡充し、より多くの金融商品をNISA制度内で保有することができるようになります。

③非課税保有期間が無期限に
旧NISA制度では、一般NISAの年間投資額120万円を非課税で保有できる期間が5年、つみたてNISAの年間投資額40万円を非課税で保有できる期間が20年でした。
一方で新NISA制度では、非課税で保有できる期間に制限がありません。

非課税保有期間が無期限になることから、旧NISA制度よりも長期的な視点による金融商品の選択ができるようになります。

4まとめ

新NISA制度は、年間投資額や生涯非課税限度額の拡充、非課税保有期間の無期限化等により、旧NISA制度より更に所得税の節税効果の期待できる制度となります。
投資を行う際には新NISA制度の適用を検討することをおすすめ致します。ご参考になさってください。

161 高所得者の税金は、どのくらい高いの?

所得税には累進課税制度が採用されていることから、高所得者ほど支払う税金が多くなります。これは高所得者が節税対策に懸命になる最たる理由ですが、低所得者とはどのくらい所得に対する支払うべき税金の割合が異なるのでしょうか?
今回は所得税率についてご紹介を致します。

1累進課税制度とは

税金の徴収には「公平、中立、簡素」という三原則があります。この三原則にある公平の原則には、経済力のある人により大きな負担を求めることで垂直的公平を保つことが含まれています。支払い能力が高い担税力がある人が多額の税金を負担することが公平であるいう考え方です。

所得税に累進課税制度が採用されている理由は、この垂直的公平を保ち、貧富の格差を是正することにあります。
所得税の他にも、相続税と贈与税に累進課税制度が採用されています。

2所得税の税率

所得税は、課税所得に所得税の税率を乗じた金額から、税額控除を差し引いて計算を行います。

所得税の税率は、所得に応じて5%から45%の7段階に区分されています。つまり、低所得者と高所得者を比較すると、所得に対する税金の割合は税率でみるだけでも、最大9倍もの差があるといえます。

具体的には、下記のように定められています。
課税される所得金額 税率 控除額
1,000円 から 1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円 以上 45% 4,796,000円
※国税庁ホームページ 参照
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

国税庁が公表をしている申告所得税標本調査結果によると、令和3年分の日本の総申告納税者数は657万人、申告された総所得金額は46兆2,842億円です。このうち所得金額100万円以下の人が342千人で全体の5.2%、所得金額1億円を超える人が24千人で、全体の0.4%となっています。
この所得金額100万円以下の人の平均所得税額は9千円、所得金額1億円を超える人の平均所得税額は69,073千円です。
※国税庁ホームページ 標本調査結果 参照
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/shinkokuhyohon2021/hyouhon.htm

所得金額100万円以下の人と所得金額1億円を超える人とを比較すると、低所得者と高所得者では、税率の違い以上に金額の差が大きいことが分かります。

3まとめ

所得税率についてご紹介を致しました。所得税の最高税率は45%、住民税は一律10%であることから、合計で55%の税金を高所得者は支払う必要があります。低所得者と比較をすると納税額に大きな差がありますが、この差をもって垂直的公平を保つことができると考えられています。
このような税金の仕組みを知ると、社会の見え方が少し変わるかもしれません。ご参考になさってください。

 

160 生命保険金を受け取って支払う税金は

生命保険金を受け取る場合、被保険者、契約者、受取人、支払事由によって、生命保険金に対して課される税金の種類が異なります。
生命保険金に対して課される税金の種類にはどのようなものがあるのでしょうか、夫婦を例にケース毎にご紹介を致します。

1被保険者が夫、契約者が夫、受取人が妻、支払事由は夫の死亡

被保険者とは、保険がかけられている人のことをいい、契約者とは、保険料を負担している人のことをいいます。
また、受取人とは受取事由が生じた際に保険金を受け取る権利のある人にことをいい、支払事由とは、保険契約時に定めた保険会社が保険金を支払うことになった理由のことをいいます。

よってこのケースは、夫が死亡等をした際に妻が保険金を受け取るという契約内容の保険の保険料を夫が生前支払っており、夫の死亡を機に妻が死亡保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険金を受け取った妻に、相続税が課されます。

2被保険者が夫、契約者が夫、受取人が妻、支払事由は満期

このケースは、夫が死亡等をした際に妻が保険金を受け取るという契約内容の保険の保険料を夫が支払っていたが、満期を迎えて妻が満期保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険金を受け取った妻に、贈与税が課されます。

3被保険者が夫、契約者が夫、受取人が夫、支払事由は満期

このケースは、夫が怪我等をした際に夫自身が保険金を受け取るという契約内容の保険料を夫が支払っていたが、満期を迎えて、夫が満期保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険金を受け取った夫に、所得税が課されます。またこの所得は一時所得に該当をします。

4被保険者が妻、契約者が夫、受取人が妻、支払事由は夫の死亡

このケースは、妻が怪我等をした際に妻が保険金を受け取るという契約内容の保険料を夫が支払っていたが、夫の死亡を機に妻が解約返戻金として保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険金を受け取った妻に、相続税が課されます。

5被保険者が妻、契約者が夫、受取人が夫、支払事由は満期

このケースは、妻が死亡等をした際に夫が保険金を受け取るという契約内容の保険料を夫が支払っていたが、満期を迎えて夫が満期保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険料を受け取った夫に、所得税が課されます。またこの所得は一時所得に該当をします。

6被保険者が妻、契約者が夫、受取人が夫、支払事由は妻の死亡

このケースは、妻が死亡等をした際に夫が保険金を受け取るという契約内容の保険料を夫が支払っていたが、妻の死亡を機に夫が死亡保険金を受け取ったという状況です。

この場合、保険料を受け取った夫に、所得税が課されます。またこの所得は一時所得に該当をします。

7まとめ

このように、保険金を受け取った場合に課される税金の種類は、所得税、相続税、贈与税の3つです。どの税金に該当をするかによって、申告の必要性の有無や、税金の支払額が異なります。
保険の契約時には契約内容のみならず、保険金受取の際の課税関係もあわせてチェックすると良いでしょう。

159 自宅開業なら必ずチェック!自宅按分とは?

「どこまでを事業経費にして良いのか」という疑問は個人事業主が確定申告をするにあたり常につきまとう問題です。特に自宅開業をしている人は判断に迷うことが多いようです。
今回は、個人事業主がつまずきやすい、経費における自宅按分についてご紹介を致します。

1自宅按分とは

自宅按分とは、事業用と私用とに併用しているものに対する支出について、事業経費と生活費とに分けることをいいます。

自宅按分は、割合を用いて計算することが一般的であり、この自宅按分割合は客観的にみて合理的であると判断することができる妥当な割合である必要がありますが、何割と定められているものではありません。

個人事業主が自宅とは別に事務所を借りて、その場所で事業を行っている場合には、その事務所の賃貸料の全額を地代家賃として計上することができます。
しかし賃貸をしている自宅の一室を事務所として使用し事業を行っている場合には、自宅の賃貸料の全額を地代家賃として計上することはできません。自宅全体に係る賃貸料のうち、事業を行っている一室分の賃貸料が地代家賃として計上することができ、それを算出する際に必要となる計算が、自宅按分です。

例えば、賃貸をしている自宅の一室を事務所として使用し事業を行っている場合に、自宅全体の家賃が10万円、事業を行うために事務所として使用している部屋の床面積が自宅床面積のおおよそ1/5である場合には、10万円に1/5を乗じた2万円が、地代家賃として計上することのできる金額となります。

2自宅按分の対象となる経費

自宅按分を要する経費とは、事業用と私用とに併用しているものに対する支出です。地代家賃の他にも、水道光熱費や通信費、車両費、保険料等があります。
また支出した年度に全額経費とはなりませんが、固定資産として計上をした資産にかかる減価償却費も自宅按分の対象となります。

自宅按分の対象となる勘定科目が決まっているものでは無く、事業用と私用とに併用していると、説明のできる支出であれば、支出のうち事業用にかかる部分を経費に計上することができる、というものです。

3まとめ

自宅按分をすることで、事業用と私用とに併用している支出の一部を、経費として計上をすることができます。これを見落とさずに計上することは、個人事業主の節税対策としてとても有効です。
自宅按分割合の決定に不安のある方や、経費の範囲の判定についてご不明のある方は、税務署や身近な専門家にご相談されることをおすすめ致します。

 

158 法人の種類とは

 

法人というと、会社を想像し、なかでも株式会社や合同会社などの法人を想像するケースが多いと思います。
しかしながら、法人というのは、いろいろな種類があります。また、法人によっては、法人税の対象にならない法人もあります。
本記事では、法人の種類と課税関係について、記載をいたします。

●法人税の対象になる法人と対象にならない法人とは?

法人と課税関係という視点で見た場合、法人は、3つに区分できます。それは、「法人税の納税義務のない法人」「収益事業から生じた所得に課税される法人」「その他、すべての所得に対して課税される法人」となります。
順に説明をしていきます。

・法人税の納税義務のない法人

法人税の納税義務のない法人とは、公共法人となります。公共法人とは、国や地方公共団体が出資し、特別法により設置された法人をいいます。
具体的にあげると、日本放送協会(NHK)や日本中央競馬会(JRA)、国立大学法人などがあげられます。

・収益事業から生じた所得に課税される法人

収益事業から生じた所得に課税される法人は、公益法人や人格のない社団等があげられます。
公益法人とは、公益社団法人や公益財団法人などが代表的な例となります。これらの法人は、公益目的事業と公益目的事業以外の事業をおこなっています。
そのうち、公益目的事業と認められるもの、かつ、法人税法上の収益事業でないものが、法人税の課税対象外となります。
また、法人税法上の収益事業とは、物品販売業や不動産貸付業など、合計34の事業を対象としており、かつ継続的におこなっているものをさします。
公益社団法人の具体例としては、日本医師会や日本植物学会、公益財団法人の具体例としては、美術館や文化財団などがあげられます。
人格のない社団等は、マンションの管理組合やPTAが代表例です。これらの団体は年会費などの徴収をしていますが、営利目的の収益ではないため、こういった収益は法人税の対象とはなりません。

・その他、すべての所得に対して課税される法人

その他、すべての所得に対して課税される法人は、株式会社や合同会社、協同組合など、先に紹介した法人以外のものとなります。
これらの法人は、すべての所得(法人税法上で非課税所得とされるものを除く)に対して、課税がされます。税率は、資本金が1億円以下か1億円超か、所得金額が800万円以下の部分か、800万円超の部分かなどにより変わります。

●まとめ

本記事では、法人の種類と課税関係について記載をしました。法人のうち、課税対象外となる法人もありますが、国などによる認定が必要であるため、設立をするには、ハードルが高くなります。
しかし、マンションの管理組合やPTAなど、身近な団体の活動で、課税されないものもあります。こういったことも理解を深めておきましょう。

157 法人と個人に課される税金の違いとは?

 

税金は、法人、個人ともに原則として、課されます。
税金のなかでも、代表的なものが法人税と所得税、住民税です。
名称が示すとおり、法人税は法人に課される税金で、所得税は個人に課される税金です。住民税は、地方税となるため、個人住民税、法人住民税という区分で課されます。
では、「法人と個人の税金の違いはなにか」「それぞれどういった特徴があるのか」こういった疑問点があるかと思います。
本記事では、法人と個人の税金について、記載をいたします。

●法人と個人の共通点、相違点とは?

 

法人も個人も「収入から経費(益金から損金)を差し引いて、所得を算出し、その所得に対して、税率をかける」という点は共通しています。
しかしながら、税率など相違点はいくつかあります。以下に詳細を記載いたします。

・法人の税率は一定値

法人の税率の特徴は、一定値ということです。標準税率は、23.2パーセントです。
ただし、課税所得が800万円以下で資本金が1億円以下の場合は、15パーセントになります。
ここに地方法人税等が加わるので、法人税の税率は、約26パーセントから34パーセントになります。

・個人の税率は、所得税の超過累進税率(変動率)と10パーセントの住民税(一定率)

一方、個人の所得税は、所得に比例して、税率が上がる仕組みです。いわゆる、超過累進税率となります。
5パーセントから45パーセントまでの税率があり、さらに、住民税の10パーセントが加算されます。
したがって、個人の税率は、15パーセントから55パーセントとなります。
所得によっては、法人の税率より個人の税率が高くなってしまうこともあります。
「所得が高くなれば、個人事業ではなく、法人成りをした方が、節税効果がある。」というのは、こういった個人の所得税の超過累進税率もひとつの要因となります。

・法人税特有の均等割

個人の場合、課税所得が0円以下であれば、税金は課されません。しかしながら、法人の場合は、課税所得が0であっても、マイナスであっても課される税金があります。
それが「地方法人税の均等割」です。
均等割とは、法人であれば、等しく課する税金で、利益の有無をといません。
資本金や従業員数の規模にもよりますが、東京都であれば、70,000円から3,800,000円となります。つまり、最低でも70,000円は課されることになります。
法人を維持するためには、最低でも年間70,000円は必要ということになります。

●まとめ

本記事では、法人の税金と個人の税金、その税率や特徴について、記載をしました。
法人の税金は一定の率ですが、均等割が必ずかかります。一方、個人は、所得税は超過累進税率となり、住民税と合わせると、最大55パーセントの税率になります。しかしながら、課税所得がなければ、納めるべき税金はありません。
法人と個人の税金について、改めて、特徴や税率などの理解を深めましょう。

156 個人の青色申告と法人の青色申告の違いとは?

個人も法人も青色申告制度はあります。青色申告の趣旨は、「納税者への記帳の推奨」となります。正しい記帳をおこない、正しい決算書を出すことにより、税務上いくつもの特典を受けることができます。
青色申告は、個人も法人もあります。では、「個人と法人の特典や制度の違いは?」という疑問点が出てくると思います。
本記事では、青色申告の個人と法人の違いについて記載をします。

●法人と個人、それぞれのメリットがある。

青色申告の適用を受けるためには、正確な記帳や事前承認制という点では、個人も法人も同じです。ただ、受けることができる特典については、共通点、相違点があります。以下、詳細を記載します。

・個人だけのメリット、青色申告特別控除

個人の青色申告には、青色申告特別控除があります。これは、最低10万円、最高65万円を事業所得、不動産所得、山林所得から控除をすることができるというものです。
事業所得の場合は、55万円か65万円になりますので、経費を使用せずに、所得を控除できるという点は、大きなメリットです。
一方、法人には、このようなメリットはありません。

・法人のメリットは、損失の繰越期間が長いこと

法人の青色申告のメリットは、繰越欠損金の控除期間が10年(平成30年3月31日以前事業開始年度は、9年)あることです。
所得税の損失の繰越は、3年であるため、法人の方が長い期間、欠損金の繰越ができます。
たとえば、9年間赤字が出続けて、10年目に大きな黒字が出ても、過去の赤字と通算ができれば、法人税負担を緩和することができます。

・個人と法人の共通項目

個人と法人の青色申告には、共通する項目もあります。代表的なものが、少額特例資産です。
少額特例資産とは、1つ30万円未満の備品等であれば、取得した期において、経費にできるというものです。
本来であれば、10万円以上20万円未満であれば、一括償却資産となり、3年で償却されます。
また、20万円以上であれば、固定資産となり、減価償却の対象となります。減価償却の対象となると、資産の管理等の手間が増えてしまいます。
少額特例資産の制度を使用すれば、30万円未満であれば、減価償却対象とせず、経費にできます。ただし、年間300万円までという制限はあります。
・届け出の提出時期の違い
青色申告をおこなうためには、税務署に届け出を提出する必要があります。
個人であれば、その年の3月15日(事業開始年の場合は、事業開始日から2か月以内)までなので、課税期間中の提出になります。
一方、法人の場合は、課税期間開始の日の前日(新設法人の場合は、設立から3か月以内)までとなります。
法人は、提出期限が早めになりますので、注意をしましょう。

●まとめ

本記事では、個人と法人の青色申告の特典の違いや共通点について記載をしました。
個人も法人もそれぞれメリットがありますので、青色申告の適用を受けていない方は、ぜひ適用を受けてみてください。
青色申告は、節税効果と記帳習慣を身につけることができ、一石二鳥の制度といえます。

155 役員報酬の損金不算入とは?

法人の人件費は大きく分けると「役員報酬」「給与」「雑給」に分けられます。
「役員報酬」は、役員に対する報酬(給与・賞与)となります。「給与」は正社員、「雑給」はパートやアルバイト、派遣社員に対して使用されるのが、一般的となります。
では、「役員報酬と給与・雑給(以下、給与等)との違いは?」「そもそも役員とは何か?」等の疑問点があると思います。
本記事では、役員報酬について記載をしていきます。

●役員報酬の定義と給与等の違いとは?

役員報酬に触れる前に、まずは役員の定義を示します。その後、給与等との違いについて、記載をいたします。

・役員の定義

役員とは、取締役や執行役、監査役等に加え、相談役や顧問でも経営に従事している場合は、役員に該当します。法人税法上の役員に該当する者以外は、使用人と呼ばれます。
役員に対する報酬は、役員報酬となります。

・役員報酬と給与等との違い

役員報酬と給与等の最大の違いは、役員報酬は、「定期同額給与でない場合は、損金算入されない」ということになります。
定期同額給与とは、簡単にいうと、「決算期間中は、毎月同じ金額を支払う」というものです。
利益が出ているから、「期中で役員報酬を増やす」「役員賞与を支給する」ということをすると定期同額給与に該当しなくなるため、増加した分や賞与分は、損金不算入となります。
例えば、50万円の定期同額給与を受けていた役員が、期中から70万円に役員報酬が増額された場合、差し引き20万円は損金不算入となります。また、20万円に減額した場合も定期同額給与が20万円とされ、すでに支払っている50万円との差し引き30万円が損金不算入となります。
また、賞与を100万円支給された場合は、100万円が損金不算入となります。
一方、給与等の場合、使用人の定期的な昇給があっても、損金算入されます。また、臨時賞与を支給されても損金算入されます。

・期中で役員報酬を変更できる方法

役員報酬は、定期同額給与が前提という記載をしました。
しかしながら、一定のルールの下であれば、期中でも変更することが可能です。
それが、通常改定、臨時改定、業績悪化改定となります。
通常改定とは、期初から3か月以内であれば、定期同額給与を改定してよいというものです。3月決算の法人であれば、4月1日から6月30日の間であれば、改定可能です。
臨時改定とは、期中で代表取締役が変わったなどの特別の事情がある場合等が該当します。
業績悪化改定は、経営状況の悪化に応じて、役員報酬を減額することができるというものです。業績悪化改定は、減額だけが対象となり、また、一時的な資金繰りの悪化などによる減額は認められません。

●まとめ

本記事では、役員報酬について記載をしました。役員とは、会社の経営方針を決めることができるため、故意に自らの報酬を変更することも可能です。その抑止力として、定期同額給与と損金不算入制度があります。役員報酬を決める場合は、このことに注意をしてください。

 

154 法人の益金と損金とは、収益と費用との違いは?

 

法人税を計算するにあたり、益金と損金という言葉をよく耳にします。一方で、損益計算書の用語として、収益や費用というものもあります。
これに対し、「益金・損益と収益・費用の違いとはなにか」「結局、どちらが正しいのか」等の疑問点があると思います。
本記事では、法人の益金・損金と収益・費用について記載をいたします。

●税金を求めるか、会計を求めるか

結論として、益金・損金も収益・費用も、法人の数字を算出するうえで、必要な要素となります。
ただ、求める数字が何かによって、変わります。詳細を以下に記載します。

・企業会計の数字を求める場合

企業会計、つまり、上場企業であれば、IRなどで公表される数字の場合、収益・費用を使用します。企業会計は、経営成績や財政状態の状況を正しく開示することを目的としています。
したがって、未実現の損失(減損等)も決算の数字に織り込む必要があります。現時点で売れていない商品や使用価値のない固定資産があれば、帳簿価額を下げるなどして、損失を出す必要があるためです。

・課税所得の数字を求める場合

一方で、益金・損金というのは、課税所得、つまり法人税の計算のため使用されます。
企業会計と法人税は目的が異なります。法人税は、財源の確保等、租税政策を目的としています。
したがって、企業会計で減損をおこなったとしても、課税所得では控除されることはありません。なぜなら、未実現の損失を故意に出すことにより、所得を下げ、税額を下げることができてしまうからです。
こういった収益・費用に関しては、法人税法で益金・損金にならないと定義づけられています。

・確定決算主義とは

益金・損金は課税所得のため、収益・費用は企業会計のため、ということを記載しました。
では、それぞれの数字を算出するために別の計算をおこなわないといけないのでしょうか、それは手間がかかってしまうため、法人税法には、確定決算主義という規定があります。
これは、企業の確定した決算に基づき、課税所得を計算するというものです。
ですので、企業は、まず、企業会計上の決算書を作成します。それに基づき、税務申告書を作成するという流れになります。
企業会計上では、収益・費用になったが、法人税法上は、益金・損金にならないものを調整し、申告書を作成します。

●まとめ

本記事では、益金・損金と収益・費用について記載をしました。
小規模な法人であれば、益金と収益、損金と費用は、同じ数字になることがあります。しかしながら、法人の規模が大きくなると、これらが同じ数字になるということは、ほとんどありません。
益金・損金と収益・費用の違いを理解することによって、会計と税務、それぞれの決算書があるということを理解することができるでしょう。

153 領収証の保管方法

会社の経理を行うにあたって、領収証やレシート、請求書等の書類は、保存義務があることはもちろん、資金の流れを把握するために非常に重要なものであるため、普段から整理しておくことが重要となります。
今回は、領収証やレシートの管理方法について解説していきたいと思います。

◆領収証の保存期間

領収証や請求書等は一定の期間、保存することが義務付けられております。
会社の経理業務として欠かせない、請求書、領収証、レシート等といった書類の管理は、法律において一定期間保存することが義務付けられております。
その保存期間については、法人の場合と、個人事業主なら青色申告と白色申告のどちらを選択しているかによって異なってきます。
請求書や領収証、レシート等の保存期間について法人と個人事業主の場合については以下の通りです。
・法人の場合
原則として7年間の保存が必要となってきます。
なお、欠損金がある場合の保存期間は9年となっております。
ただし、2015年度における税制改正によって、2017年4月1日以後に開始する欠損金額の生ずる事業年度においては、領収証を含む帳簿書類の保存期間は10年間に延長されています。

・個人事業主の場合
青色申告の場合だと7年間の保存が必要となります。
ただし、領収証・請求書以外の注文書や納品書等の場合には保存期間は5年となります。
また、白色申告の場合には5年間の保存が必要になってきます。

◆領収証の管理方法

管理方法は自分に合ったやり方で領収証・レシートの保管方法
領収証やレシートは、一枚一枚は薄く小さな書類ですが、1年経つと結構な量になってくるものです。
それだけに、整理せずに放置しておくと、後で山積みの書類を前にして大変な思いをしてしまう可能性があります。
そのようにならないために、日常的にある程度整理しておくことがおすすめとなります。
そのように分かっていても、多くの事業主は日々忙しいため、領収証を整理する時間を長く取るのは現実問題として厳しく、また、これらの書類は確定申告が終わった後は、自分が確認したいと思った時や税務署の調査が入った場合を除けば、利用することはほぼないでしょう。
そのため、領収証を使う時に右往左往せずに済む程度に、月別、費目別等でおおまかに整理しておくことをおすすめします。
領収証を月別に分けておくと、後から特定の取引について内容を確認したくなった時に、比較的探しやすいというメリットがあります。
また、費目別に分けておくと、費用毎にかかったボリュームも把握しやすく、会計ソフトに続けて入力しやすくもなります。
領収証等の保管例として、下記の保管例を挙げますのでご参考になれば幸いです。

➀封筒に月別、費目別等でまとめて保管する
月別、費目別等、専用封筒をいくつか用意して、領収証やレシートをもらったら、封筒に入れておく方法になります。
しかし、この保管方法は枚数が多いと封筒から出し入れする際に乱雑になってしまったり、うっかり落としてなくしたりしてしまう恐れがあるので、ホッチキスで止める、沢山入る大きめの封筒を使うといった工夫も必要になります。

②領収証やレシートをその都度、専用のノートに貼り付けていく方法
封筒のように出し入れすることがないので、こちらの方が紛失等のリスクは低いです。
また、作ったノートを開いてページをめくると、いつどこでどういった内容のお金が動いたかを順を追って確認することが出来るので、経費の流れも把握しやすいのも特徴です。
しかし、貼り付けたレシートが剝がれないように、糊付けをきちんとしておく必要があります。

③ファイリングをして収納する方法
最近は、領収証保管に特化したファイルが出てきているので、ファイルにまとめておくのもおすすめの方法になります。
いわゆる専用ファイルだけでなく、クリアファイルに分けて入れておいたり、ファイルボックスを使って収納したりするのもおすすめです。
ファイルに月や科目のインデックスをつけておけば、確認がさらにしやすくなります。

◆請求書の保管方法

領収証やレシートとともに、大事な業務上の書類である請求書です。
請求書も一定期間の保管をしなくてはいけませんが、管理方法として一般的なのは、月別あるいは得意先別に分けておく方法になります。
この方法は、それぞれ以下のようなメリットとデメリットがあります。

➀月別に管理する場合
・メリット
月間の仕事やお金の流れが把握しやすい。
その月に発行されたものをまとめればいいので、分類する手間が少ない。
・デメリット
取引先が多い場合、特定の会社の請求書を探しだす時に時間を要する。

②取引先別に管理する場合
・メリット
各取引先とのお金の流れを把握しやすい。
・デメリット
請求書を定期的に分類する手間がかかる。
また、月間でのお金の流れが把握しにくくなる場合もある。

請求書の保存方法については、どちらがより正しいということはありませんので、月間の請求額を把握したいのなら月別、取引先毎の状況を把握しておきたいなら取引先別等、自分が作業しやすい形で管理することが良いです。

 

◆感熱紙レシートの文字消えの対策方法

上述したように、レシートや領収証の保存期間は5年間または7年間の保存期間が必要になります。
しかし、ここで問題となるのが感熱紙レシートです。
最近のレシートは感熱紙であることが多く、時間がたつと印字が消えてしまうことがあります。
そのため、感熱紙のレシートをもらった場合は、印字が薄くなってしまっても経費であることを証明出来るように、下記方法によって印字が消えても大丈夫なように対策しておくことをおすすめします。
・レシートの余白に金額や購入日、支払内容等を書いておく。
・レシートをコピーしておく。
・レシートをスキャンして電子保存しておく。
・レシートをデジカメ、スマートフォンで撮影しておく。
経費の証明については、レシートなどの現物書類以外は経費とならないということではなく、レシートのコピーを保存しておくことで問題ないです。
ただし、出来る限り熱や光のない場所に保管しておいたり、印刷が薄くなったり消えている原本も一緒に取っておくべきです。
また、2015年の税制改正によって、それまで3万円未満のものでしか出来なかった領収証やレシート、請求書等のスキャナーでの保存が3万円以上のものでも可能となり、電子署名の付与も不要となりました。
さらに、2016年の改正で、税務署へ事前にその旨を申請しておけば、領収証やレシートをデジカメやスマートフォンで撮影した画像データで保存することも可能となりました。

◆結論

領収証の保管方法や保存期間について本稿で解説してきました。
また、今後は電子帳簿保存法の改正によって電子での保存が義務付けられてきます。
上記の感熱紙レシート対策、さらに紙で保存する手間やコストの削減という観点から、今後は、紙だけでなく電子保存ということを積極的に管理方法として取り入れていくべきです。

153 役員報酬の決定方法について

法人の利益を圧縮するためには経費を多く支出する必要があります。
一般的に法人が多く支出する経費で挙げられる項目は、仕入高、役員報酬、従業員に対する給与、減価償却費、保険料、外注費などが挙げられます。
今回は法人が多く支出する経費のうち、役員報酬について解説していきます。

◆役員報酬と給与の違い

役員報酬とは、取締役や監査役などといった役員に対する報酬をいいます。
一方で、給与とは、従業員に対する給与をいいます。
役員報酬と給与の違いは、役員報酬は会社の経費にするために一定の要件があるのに対して、給与は基本的に支給した分が全額経費となります。
家族経営などをしている法人の場合には、配偶者や親を役員としていることが多く、これらの役員が実際の業務には一切関与していなくても、毎月役員報酬として支給して会社の税金を抑えるために利益を圧縮しているケースが見受けられます。
また、決算月近くになって、急に利益が出たからといって役員報酬を支給するといった利益調整を行なうことも考えられるため、役員報酬を損金算入させるためには一定の要件が設けられています。

◆役員報酬の損金算入要件

役員報酬を損金算入できる要件は次の3つに該当する場合、損金算入が認められます。

①定期同額給与
定期同額給与とは、役員に対して毎月同額を支給する給与です。
また、これに準ずるものとして、適正に給与改定が行われたものが含まれます。
給与改定については、法人の利益調整に利用されやすいため、恣意性の排除をする観点から、以下に掲げる3つの給与改定に限定されています。
・その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月を経過する日までに継続して毎年所定の時期にされる改定
・その事業年度においてその法人の役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情によりされた役員に係る定期給与の額の改定(臨時改定事由)
・その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた定期給与の額の改定(業績悪化改定事由)

②事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の定めに基づいて支給する給与です。
事前確定届出給与は届出期限までに適正に届出を行わない限り、損金の額に算入することができないため、以下に掲げる届出期限を正確に把握する必要があります。
また適正に届出を行った場合でも、届出額と実際の支給額が異なる場合は、その全額が損金不算入となるため注意が必要です。

・届出の原則
事前確定届出給与に関する定めをした場合は、原則として、次のイまたはロのうちいずれか早い日が届出期限となります。
イ 株主総会、社員総会又はこれらに準ずるものの決議により、その定めをした場合におけるその決議をした日から1ヵ月を経過する日
ロ その会計期間開始の日から4ヶ月を経過する日

・臨時改定事由により定めをした場合
臨時改定事由により、その臨時改定事由に係る役員の職務について、事前確定届出給与に関する定めをした場合は、次に掲げる日のうち、いずれか遅い日が届出期限となります。
イ 上記原則によるイ又はロのうちいずれか早い日
ロ 臨時改定事由が生じた日から1ヵ月を経過する日

③業績連動給与
法人税法上、役員給与として損金算入できるものに業績連動給与も含まれています。
ただし、原則的に少数の個人株主によって支配されている同族会社が支給する業績連動給与は全額損金不算入となります。

◆役員報酬の決定方法

役員報酬を決定する方法としては以下の通りとなります。
役員報酬の決定に関して、まず法人税法上は株主総会や取締役会等による決定を前提としていると考えられます。
一方、会社法では取締役等の報酬等の取り扱いについては、会社法361条1項より、取締役の報酬や賞与等については、定款に定められていないときは、株主総会の決議によって定める。と規定されております。
以上の内容から、税務におけるプロセスを考えると、まず会社法の規定に基づき株主総会等で役員等の報酬の額を決定します。
その後、その株主総会等の決議を行った日、決定した報酬の額をもとに、法人税法上の取り扱いを判断し、各役員の報酬額を決定することとなります。
このように役員報酬は株主総会等によって決められるため、役員報酬を損金に計上するための根拠資料として、株主総会の議事録が必要となります。
この議事録については税務調査が入った際にも必ず確認される論点となるので、役員報酬を決定する場合には、議事録を作成することも忘れずに行う必要があります。

◆結論

役員報酬は、法人の経費の中でも特に大きな割合を示す項目であるため、支給したにもかかわらず経費として損金算入が認められない場合には、多額の法人税を納付する事になってしまいます。
役員報酬とは従業員の給与とは異なり、上述したように経費として認められるには一定の要件があります。
少しでも法人税の納税を抑えたい場合には、役員報酬の全額を損金算入が認められるように、役員報酬を支給する場合には税務上の注意点について調べておく必要があります。
今回の記事から、役員報酬について参考になれば幸いです。

152 役員に対する社宅家賃の節税対策について

会社の社宅を役員へ貸すにあたり、無償で提供したり、極端に安い金額でかしている場合には、その役員に対する役員報酬として給与課税の対象になるケースがあります。
今回は社宅家賃を役員からいくらもらえば給与課税されずに済むのか、解説していきたいと思います。

◆社宅家賃の設定方法

社宅家賃の設定方法には2種類のケースが考えられます。

まず1つは通常の家賃の設定方法が挙げられ、もう1つは小規模住宅等の家賃の設定方法が挙げられます。

通常の家賃の設定方法については下記方法によって適正な家賃を計算することができます。

法人が役員に貸した通常の月額家賃の計算方法としては、次の①と②の合計額の12分の1
①その年度の家屋の固定資産税の課税標準額×12%(木造家屋以外の場合については10%)
②その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6%

ただし、法人が他の者から借り受けて役員に貸した住宅で、法人が他の者に支払う賃借料の額の50%相当額が、上記算式により計算した金額を超える場合には、他の者に支払う賃借料の額の50%相当額となります。

もう1つは、小規模住宅等の家賃の設定方法が挙げられます。

小規模住宅とは、家屋の床面積が132㎡以下(木造以外の家屋については99㎡以下)の住宅をいいます。
一般的な住宅は、この小規模住宅に該当することがほとんどとなります。
この小規模住宅に該当する場合の家賃設定としては、次の①から③の合計額が、家賃設定として適正な金額になります。

①(その年度の家屋の固定資産税の課税標準額)×0.2%
②12円×(その家屋の総床面積(㎡)/(3.3㎡))
③(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

上記の他に、豪華社宅の場合の取り扱いについては以下の取り扱いとなります。

豪華社宅に該当する場合には、上述した通常の家賃設定をするケースや小規模住宅等に該当するケースによる計算方法は適用せずに、豪華社宅である当該建物の賃貸料相場により家賃設定することになります。
豪華社宅とは具体的には下記内容のいずれかに該当する場合の建物を豪華社宅といいます。
・その家屋の床面積が240㎡を超える場合
・その家屋の床面積が240㎡以下であっても、その建物にプールなどの設備があること
・役員個人の嗜好等を著しく反映した設備又は施設を設置していること
上記より、豪華社宅とはその建物の床面積が240㎡を超えていない場合であっても、プールやその役員個人の嗜好を反映しているか等といった事を総合的に考慮して判断する事になります。

◆役員社宅の節税

役員社宅制度を導入すると会社の利益を圧縮出来ることになるため、節税策として非常に有効となります。
具体的には下記項目が節税策として挙げられます。

・全額を損金算入する事ができる
役員社宅を利用した場合、最低でも役員社宅の50%を損金算入する事が可能になります。
会社の事務所を役員の社宅として利用している場合には、当該不動産の契約を役員個人の名義では無く、会社名義で契約することによって、役員社宅の全額を損金算入する事が出来ます。
不動産会社によっては不動産の使用用途を住居用としてしか賃貸していない場合や、個人のみにしか契約しないなどのケースがありますが、事務所として実際に使用している場合には、最低でも家賃の50%は損金算入する事が可能になります。

・役員の社会保険料を減額できる
通常、社会保険料は標準報酬月額によって金額が決定します。
役員社宅を利用することにより、社宅家賃分を報酬から減額した場合にはその金額だけ標準報酬月額が低くなります。
社会保険料は報酬や賞与が増えれば増える分、その分だけ標準報酬月額が増加する為、役員社宅を利用することによって、役員の社会保険料が減額することに繋がります。

・役員の手取り額を増やすことができる
役員社宅を利用することによって、社宅家賃分だけ役員報酬の総額は減りますが、その分だけ源泉所得税や社会保険料が減ることになります。
したがって、社宅家賃を報酬の代わりに支給する場合には、実質的には役員の手取り額を増やす効果を得ることが可能になります。

◆役員社宅の注意点

上述したように役員社宅を支給した場合には、全額が損金算入可能などさまざまなメリットが挙げられます。
しかし、役員社宅を支給する上で注意すべき点もあります。

・社内規定などに定めておく
役員社宅を利用する場合には、社内規定などにその旨を記載しておく必要があります。
一般的に、従業員に対する福利厚生などについて記載していることが多いですが、役員社宅を利用する場合には別途、社内規定を設ける必要があります。
社内規定を設けていないと、税務調査が入った場合には指摘され、役員社宅を認められないケースになりかねません。
そのような事態を避ける為にも、役員社宅を利用する場合には必ず社内規定を準備しておく必要があります。

・契約時に敷金などの一時負担が発生する
役員社宅を利用する場合、賃貸物件を法人名義で契約する必要があります。
その場合、個人名義と同じように敷金や保証金など、契約時に一時負担が発生する事を理解しておく必要があります。

◆結論

以上が役員社宅を利用した場合のメリットや注意点になります。
役員社宅は節税メリットとして非常に有効ではありますが、役員社宅を利用する場合には、社内規定を設けるなどの準備も必要になります。
税務調査が入った際には、役員社宅を否認されないように税理士に相談する事をおすすめします。

151 配偶者居住権による相続税の節税について

およそ40年ぶりの民法改正によって、相続に関する取り扱いが見直された結果、配偶者居住権という権利が新たに設定出来るようになりました。
この配偶者居住権について、配偶者居住権の意義や相続税法上の取り扱いを解説していきます。

◆配偶者居住権とは

 

配偶者居住権とは、被相続人が生前住み続けていた自宅に配偶者が住んでいた場合、被相続人の死亡後にも引き続き配偶者が住み続ける事が出来る権利です。
配偶者が引き続き自宅に住む事は当たり前のように思えますが、被相続人の死亡後、何らかの原因により配偶者が自宅を巡りトラブルとなっても、配偶者が自宅に住む権利を保証するために創設された制度になります。
配偶者居住権は自然に得ることはできず、配偶者居住権の申請方法としては、被相続人の遺言書のほか、遺産分割協議により、相続人全員の合意を得ることや、家庭裁判所での調停や審判においても設定する事ができます。
そのため、相続人全員の合意を得ることができなかった場合には、配偶者が自宅に住む権利は与えられませんでした。
第三者に対抗する為には、配偶者居住権の設定が必要になってきます。
有効期間は、基本的に配偶者が亡くなるまで、もしくは遺産分割協議で定めた期間があれば当該期間まで効力が続きます。
配偶者居住権は、設定することによりいくつかデメリットもあるため、必ずしも設定する必要はありません。
配偶者居住権の消滅は、配偶者居住権を設定後に配偶者が亡くなってしまった場合に配偶者居住権が消滅することも理解しておく必要があります。

◆配偶者居住権には相続税の節税効果について

配偶者居住権を設定した場合、相続税の節税効果があるかどうかについては、後述するデメリットもあるため一概には言えませんが、1次相続、2次相続があった場合には相続税の負担が軽くなるケースがあります。
具体的な例を解説する前に、まずは1次相続と2次相続について説明し、その後に具体例を挙げます。
まず、1次相続とは、夫婦の片方が亡くなった場合です。
1次相続で相続人となった配偶者が亡くなる事を2次相続と言います。
例えば、父、母、子の3人家族である場合に、初めに父が亡くなった相続を1次相続と言い、その後、残された父の配偶者である母が亡くなった相続を2次相続と言います。
次に、配偶者居住権により節税となるケースについて具体例を挙げて解説していきたいと思います。
前提としては子供に持ち家がある場合としておりますが、持ち家の有無は関係ありません。
今回の相続により、最終的に子供に自宅が相続される事を前提としております。
まず前提条件として、被相続人の相続財産が1,000万円の自宅と1,000万円の現金があり、相続人となるのが配偶者と子供の2人と仮定します。
民法の改正により配偶者居住権が創設される前の相続税法の場合です。被相続人が亡くなった際に配偶者には1,000万円の自宅、子供には1,000万円の現金を相続したときは、それぞれに相続税が課税されます。(1次相続)
1次相続が終わり、残された配偶者が亡くなった後に、子供が1,000万円の自宅を相続すると相続税が課税されます。(2次相続)
しかし、民法改正後の新しい法律で配偶者が居住権、子供が所有権をそれぞれ相続した場合には、上述した計算が異なってきます。
1次相続の段階では、配偶者が居住権400万円と現金600万円、子が所有権600万円と現金400万円を相続したと仮定した場合、従来の不動産と現金を1,000万円ずつ相続した場合と大体同じくらいの相続税となります。
そして、2次相続が発生した場合、配偶者の死亡によって配偶者居住権は消滅するため、相続人である子供が新たに居住権を相続し、居住権に対する相続税が発生するという事はありません。
ただし、居住権以外の現預金などの相続財産が残っていた場合には、現預金などの相続によって相続税が発生する可能性はあります。
配偶者居住権を取得すれば、必ずしも相続税の税負担が減少するというものではありませんが、上記のような2次相続が発生した場合に不動産に対する相続税が課税されないというのがメリットの一つとして考えられます。

◆配偶者居住権で節税にならないケースとは

配偶者居住権を設定してある建物の場合、小規模宅地の特例が適用されないケースがあります。
具体的には、まず配偶者居住権が設定されている建物の場合、配偶者居住権、居住建物の所有権、敷地利用権、敷地所有権に分けて考えます。
小規模宅地の特例は土地に対するものであるため、敷地利用権、敷地所有権に対して適用されます。
よって配偶者居住権は建物に対して設定されるため、建物に対して小規模宅地の特例は適用されません。
配偶者居住権のメリットとしては、2次相続が発生した場合には相続税が課税されないなどのメリットが挙げられますが、デメリットとしては下記の内容が挙げられます。
・不動産の売却ができない
配偶者居住権とは、その不動産に住むことができる権利であり、不動産所有権のように不動産を売却できる権利はありません。
例えば配偶者居住権が設定されている不動産から、老人ホームなどへ転居した場合、誰も住んでいないからといって不動産を売却することができなくなります。
不動産所有権を持つ人が、配偶者居住権を設定された不動産を売却することは可能ですが、不動産の購入者は配偶者居住権が設定された不動産を購入した場合にはその不動産へ住むことができません。
配偶者居住権が問題となるのは、配偶者が認知症になった場合です。配偶者居住権の権利を放棄しなければ配偶者が生きている限り不動産に住むことも売却することもできず、認知症の配偶者に配偶者居住権の権利を放棄してもらうのも至難の業であることが大きなデメリットとなります。
・不動産所有者は税負担が大きい
固定資産税の負担者は、不動産所有者です。
配偶者居住権の取得者の場合、建物に対する固定資産税のみ負担し、土地に対する固定資産税は、不動産所有者が負担します。
不動産所有者は当該不動産に住むことができない上、土地に対する固定資産税を負担する必要があるので、不満に思うことがあるでしょう。
・配偶者の年齢によって手元資金が少なくなる
配偶者居住権は、居住権の存続年数(=平均余命年数が長ければ長いほど高くなる)で、配偶者居住権の価値が高まります。
配偶者居住権は、相続人である配偶者が居住できる権利に加えて、生活資金も取得する事が可能である事がメリットですが、配偶者の年齢が若い場合には、配偶者居住権の価値が相対的に高くなり、その結果、居住権以外に相続できる生活資金が少なくなってしまいます。
・法律上の配偶者のみ設定可能
近年は、法律上の婚姻関係を結ばずに、事実婚などする人も多くなっています。
配偶者居住権を設定するには、婚姻関係を結んでいる夫婦である必要があるため、事実婚の増えている近年では、配偶者居住権の設定が出来ない事もデメリットとして考えられます。

◆配偶者居住権の計算方法とは

配偶者居住権の計算方法は以下で解説する項目を把握していれば、自分でも計算することができます。
ここでは配偶者居住権の計算方法について解説していきます。
まず、配偶者居住権の計算方法は以下の算式となります。
①A=(耐用年数ー経過年数ー存続年数)÷(耐用年数ー経過年数)×存続年数に応じた法定利率による複利現価率
②配偶者居住権=建物の時価(相続税評価額)- ①
上記計算式により、配偶者居住権が算出されますが、それぞれの計算式に当てはめる用語について解説していきます。
・耐用年数について
耐用年数とは、建物を使用することが可能な期間です。
耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により、該当する建物の耐用年数を当てはめます。
・経過年数について
経過年数とは、配偶者居住権の設定されている建物が出来た年から現時点まで経過した年数です。
1年未満の期間がある場合には、6ヶ月未満は切り捨てし、6ヶ月以上は1年として経過年数を計算します。
・存続年数について
存続年数とは、配偶者居住権を設定されている不動産に配偶者があとどのくらいの期間、居住するかを把握する年数になります。
遺族と配偶者居住権の設定期間を取り決めている場合には、当該期間が存続年数となります。
・法定利率による複利現価率について
法定利率による複利現価率とは、「存続年数に応じた法定利率による複利原価率表」に該当する原価率を指します。
・時価(相続税評価額)について
建物の時価は、固定資産税評価額となります。
固定資産税評価額は、毎年5月頃に送られてくる固定資産税の課税明細書に記載されている建物の価格です。
用語の意味と数値が分かっていれば、配偶者居住権を自分でも計算する事が可能になります。

◆まとめ

以上が配偶者居住権に関する内容について、意義や計算方法などを解説しました。
配偶者居住権は自分自身でも計算することが出来ますが、確実に正しいものを計算したい場合などの具体的な内容については、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

150 贈与税がバレるリスクについて

相続税改正前は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数が基礎控除額とされていました。
しかし、相続税改正後の平成27年1月1日以降は3,000万円+600万円×法定相続人の数に基礎控除額が引き下げられました。
それに伴い、相続税の課税を免れるために生前贈与が増加しております。
本稿ではこの贈与税について解説していきます。

◆贈与税とは

最初に、贈与税はどういった場合に発生するのか、贈与税の課税対象者はどういった者が該当するのか解説していきたいと思います。
贈与税とは、個人から無償で財産を取得した場合において、その取得した財産に対して課税されるものとなります。
この贈与税は、相続税を補完するために作られたものになります。
相続税は、ある人が死亡した時点におけるその死亡した人の遺産に課税するものです。
その死亡した人が生前に財産を子供などに贈与すると、その贈与した財産には相続税を課税することが出来ないという問題が生じます。
そこで、生前の贈与財産に贈与税を課税することにより相続税を補完する必要があるという考え方によるものです。
贈与税は相続税に比べて税率が高くなっており、基礎控除額も相続税に比べて低く設定されております。
このことから、同額の財産を取得した場合、相続税に比べて贈与税の方が多くの税金を納める必要になるので、容易に財産を移すことを認めず、相続税が課税出来るようになっております。

◆贈与税の課税対象者

贈与税の課税対象者は、基礎控除額である110万円を超えた財産を贈与により取得した者となります。
ポイントは基礎控除額110万円ということです。
これは贈与者から受けた財産が110万円の範囲内であれば贈与税が課税されることはありません。
しかし、2人から110万円ずつ贈与を受けた場合、受贈者は220万円の財産を受けた事になるので、この場合には110万円を超えているため、贈与税が課税されます。

◆贈与税がかかるケースについて

贈与税は相続税を補完することを目的としたものであります。
それでは具体的に贈与税が課税されるケースにはどういったものがあるのか具体例を挙げて解説していきたいと思います。
贈与税がかかるものとしては、基本的に贈与によって取得した110万を超える下記内容のものが挙げられます。
・生活費や学費の為に使用する目的ではない現預金。
・株などの有価証券
・土地や家屋などの固定資産
・営業権や会員権など
このように、基本的には110万円を超えた全ての財産を取得した場合には贈与税が課税されます。
ただし、後述しますが法律上決められた一定のものについては非課税財産として贈与税がかからないものもあります。

◆みなし贈与財産とは

贈与税が課税されるケースは、無償で110万円超の財産を取得した場合が挙げられます。
しかし、下記内容については贈与のようには見えませんが、みなし贈与財産として贈与税の課税対象となります。
・生命保険金
生命保険金について、死亡や満期で保険金を受け取った場合、保険金の受取人以外の者が負担した保険料に対応する保険金は、みなし贈与財産として、保険金の受取人に贈与税が課税されることになります。
・債務免除による利益
子供が返済すべき借金を親が肩代わりすることになった場合、子供は親から肩代わりしてもらった借金と同額を親から譲り受けたことになります。
この場合、子供に対してみなし贈与財産があったものとして贈与税が課税されます。
・財産の名義変更
不動産や株式の名義変更があった場合、金銭の授受が行われていない場合や他の人の名義で不動産や株式を譲り受けた場合には、みなし贈与財産があったとして贈与税が課税されます。

◆実務上よくみられる贈与税がかかる具体例

実務上、贈与税が課税されるケースとして、一般的によくみられる取引としては、親族間での取引が多くみられます。
具体的には下記項目が挙げられます。
・親から子や孫へ110万円を超えた金銭の贈与。
・これまで親が保険料を支払っており、満期や解約により、保険金が子へ移った場合。
・子の借金を親が肩代わりしてくれた場合。
税法は、いくらもらったかではなく、いくら得したかで考えます。
よって、財産を取得したケースのほか、借金の肩代わりをしてもらった場合も贈与税が課税されます。
実務上、贈与税が課税されるケースは、上記内容の取引が多く見られるものとなります。

◆申告漏れがバレるリスクについて

贈与により、財産を取得した場合には贈与税を納める必要があります。
ただし、上述したように贈与税がかかるケースは、親族間の取引が多いため、贈与税がかかる取引をしていても、贈与税を納税していない場合がある事も考えられます。
贈与税を納税していない場合に調査が入った際には、追徴税額の支払いなどが発生する為、必ず贈与税は納める必要があります。
ただし、親族間でのやり取りなのでバレないのではと思うかもしれません。
贈与税の申告漏れはどういった場合に発覚するのか、いくつか具体例を挙げて解説していきます。
・税務署からの「お尋ね」によりバレるケース
税務署が贈与を把握するきっかけとして、「お尋ね」という文書があります。
お尋ねには色々な種類のものがあり、その中で「お買いになった資産の買い入れ価格などについてのお尋ね」というものがあります。
これは土地や建物を取得した場合に、税務署が購入者へ送るものであり、このお尋ねには、購入金額や購入者の所得、購入者の職業、購入するための資金の出所などの質問が記載されております。
このお尋ねにより、購入者の所得に見合った不動産の購入金額であるか、もし所得に見合っていない場合には親族からの資金援助があったのではないか、と想定できる為、その場合に贈与税の申告があったかどうか確認することが出来ます。
よって、贈与税の申告がない場合には調査が入る可能性が高まります。
・関係者からの情報によりバレるケース
このケースはあまりありませんが、ないとも限りません。
例えば飲食店の会話で親から多額の資金を贈与されたなどの会話を税務署職員へ伝えた場合、税務署はその情報を元に税務調査を開始することもあります。
金額が多額であればその可能性は十分に高まりますので、気をつける必要があります。
・相続税の税務調査によりバレるケース
相続税の税務調査の段階で、生前に多額の贈与があった場合に、預金口座の入出金から発覚するケースが多いです。
相続税の税務調査の際には、過去7年分の預金の入出金を確認されることが多く、その過程の中で、相続税逃れのために生前贈与を行っていたことが発覚するケースがあります。
相続税逃れのために、生前贈与を繰り返していて、かつ贈与税の申告もされていない場合は、贈与税に対し重加算税が追徴課税される場合がありますので注意が必要です。
贈与税として認定されるケースとして、個人間の金銭の貸し借りを端緒としていることが多いので、個人間の金銭の貸し借りには、金銭消費貸借契約書や借用証書を取り交わすことをお勧めします。

◆贈与税未申告のペナルティーについて

贈与税が未申告であった場合のペナルティーとしては「過少申告加算税」、「無申告加算税」、「重加算税」が挙げられます。
・過少申告加算税
単なる計算ミスにより、本来納めるべき税額よりも低い税額を納めた場合にかかるペナルティーとして、過少申告加算税があります。
過少申告加算税とは、追加で納付すべき税額の10%を乗じた金額となります。
しかし、追加で納付すべき税額が、本来の税額と50万円を比較していずれか高い方を上回っている場合には、その上回った額に対しては15%を乗じた金額を納める必要になります。
・無申告加算税
無申告加算税とは、申告期限までに申告書を提出しなかった場合に課されるペナルティーとなります。
無申告加算税は、申告期限後、税務調査が行われる前までに、自主的に申告した場合には、本来の税額に5%を乗じた金額となります。
しかし、申告期限後、税務調査が行われた後に申告した場合には、本来の税額の50万円までは15%、50万円を超える部分については20%がペナルティーとなります。
・重加算税
悪意や隠蔽など、故意に申告漏れや無申告をした場合に課されるペナルティーが重加算税となります。
悪意や隠蔽などがあり、過少申告加算税が課税されるケースでは、本来追加で納めるべき税額に35%を乗じた金額が重加算税として課税されます。
悪意や隠蔽などがあり、無申告加算税が課税されるケースでは、本来追加で納めるべき税額に40%を乗じた金額が重加算税として課税されます。

◆贈与税がかかることを知らなかった場合の対処法

贈与税がかかることを知らなかった場合には、申告期限までに贈与税申告書を提出しなければなりません。
また、贈与税の申告には時効もありますので、以下では贈与税の申告期限と時効について解説します。

・贈与税の申告期限
贈与税の申告期限は、原則、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、納税者の住所地の所轄税務署へ提出する必要があります。
ただし、3月15日が休日の場合には、その翌日となります。
・贈与税の時効
贈与税の時効は、贈与税の申告期限の翌日から起算して5年間となっております。

◆非課税になるケースと非課税の贈与方法について

贈与税は基本的に財産を無償で取得した場合には課税されることを解説しました。
しかし、国民感情の観点から、一定の財産については贈与税が非課税となるケースがあります。
具体的には下記内容が挙げられます。
・生活費又は教育費
夫が妻に生活費を渡した、親が子の教育費を負担した、といったことも贈与ではありますが、これらは日常生活に必要なものであるため、非課税となります。
夫婦間や親子には扶養義務があるため、生活費や教育費を渡すことは当然なので、税法で非課税規定を設ける必要はないと考えられます。
しかし、このように非課税規定を設けておかないと、生活費や教育費といった名義で多額の財産を妻や子へ移してしまうと考えられます。
そこで、これらを防止するために非課税規定を設けたのです。
例えば、親が子へ500万円を渡して、子が300万円を自分名義の預金とした場合、通常教育費として必要な金額は200万円と考えられます。
そのため、300万円は日常生活に必要なものとは考えられないため、300万円に対して贈与税が課税されます。
・香典や祝い金など
香典や結婚式の祝い金、お中元やお歳暮なども贈与となります。
しかし、これらは通常必要なものであり、国民感情を考慮しても贈与税を課税するのは適当とは言えません。
そこで、贈与税では、贈与者と受贈者との関係に照らして、社会通年上、相当と認められるものは贈与税が非課税とされております。

◆まとめ

以上、贈与税が課税されるケースや非課税となるケースについて解説しました。
贈与税は非課税規定を除き、基本的には無償で財産を取得した場合には課税されるため、金額が高額なものの贈与を受けた場合には、贈与税を期限内に納めるように意識しておくことが、後にペナルティーを避けるためにも重要となってきます。

 

149 贈与税がかからないケースについて

相続税の申告が増加していることから、国は相続税対策を強化するために力を入れてきています。納税者側としては、税金の支払いを極力避けるために、相続税対策として生前贈与が頻繁に行われています。生前贈与をした場合には申告が必要なのか、また贈与税がかからない方法としてどのような方法があるかを解説していきます。

◆110万円を超えない贈与の場合における贈与税の取り扱い

 

贈与税とは、自分が所有している現預金や不動産などの財産を他の人へ無償で譲渡した場合に、譲渡した財産が一定額以上であると課される税金です。
暦年である1月1日から12月31日までの間に一定額以上の財産を贈与された場合、翌年3月15日までに贈与税を納める必要があります。
この贈与税には基礎控除という非課税枠が設けられています。
基礎控除額は110万円とされているため、110万円以下か110万円以上かで贈与税が課されるか否かが決まります。
そのため、110万円を超えない財産の贈与を受けた場合には、贈与税がかかりません。

◆贈与税をかけずに贈与する方法について

 

前述したように、財産を他の人へ無償で譲渡した場合には贈与税がかかりますが、一定の条件を満たしていれば、贈与税をかけずに贈与することができます。
➀基礎控除内での贈与
前述したように、贈与税の基礎控除額は110万円とされています。
そのため、110万円以下の財産を贈与された場合には贈与税は課されません。

②扶養義務者からの生活費等の贈与
夫が妻へ生活費を送る行為や親が子の教育資金を負担する行為は贈与となります。
これらは「日常生活に必要なもの」として、贈与税が非課税とされています。
もともと夫婦や親子間には扶養義務があり、生活費や教育資金を送ることは当然の責務であるので、税法でわざわざ非課税規定を設ける必要はないのではと考える人もいるかもしれません。
しかし、このような非課税規定を設けておかないと、生活費や教育費といった名目で多額の財産を妻や子へ贈与する場合に一円も課税されないこととなります。
そのような事態を防止するために、非課税規定として設けられたと考えられます。

③香典等の贈与
香典や結婚式のご祝儀、お中元やお歳暮なども贈与になります。
これらはその性質上必要なものであり、国民感情を考慮しても課税することは適当とは言えません。
そのため、贈与税の取り扱い上「贈与者と受贈者との関係に照らして社会通念上、相当と認められるもの」に対しては贈与税がかからないとされています。

④法人との間の贈与
贈与税は個人間の取引において財産を取得した側が納める税金であるため、法人との取引において財産を取得した場合には贈与税はかかりません。しかし所得税はかかります。

◆贈与税の特例を活用するケース

 

➀相続時精算課税制度
相続時精算課税とは、生前に贈与があり、納税者が相続時精算課税制度の利用を選択した場合、贈与時に贈与財産に対する贈与税を支払い、その後に相続が発生した際、贈与財産と相続財産とを合計して計算した相続税から、既に支払った贈与税を控除することで、相続税と贈与税を通じた納税を行う制度になります。
なお、相続時精算課税における贈与税は相続税の前払い的な性質のものになるため、相続税を超える部分については還付を受けることができます。
この相続時精算課税の適用対象者は、贈与者が60歳以上の親や祖父母で、受贈者が18歳以上の推定相続人および孫になります。
相続時精算課税の適用を受けるには、受贈者が贈与を受けた年の翌年3月15日までに相続時精算課税選択届出書を納税地の所轄税務署長へ提出する必要があります。

②住宅取得等資金贈与の非課税制度
親や祖父母などの直系尊属から住宅取得のための資金の贈与を受けた場合、一定の金額までは非課税となります。
住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用対象者は、贈与者が直系尊属であり、受贈者が18歳以上の直系卑属になります。
ただし、贈与を受けた年において受贈者の合計所得が2,000万円を超える場合には、この特例の適用を受けることができません。
適用を受けるには、住宅取得等資金を贈与された年の翌年3月15日までに住宅家屋を新築して居住し、将来的にも居住の用に供する見込みである場合に適用されます。
また、この特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類を添付して申告する必要があります。

③教育資金贈与の非課税制度
2019年4月1日から2023年3月31日までの間に、30歳未満の受贈者の教育資金のために直系尊属が資金を贈与した場合、1,500万円までは贈与税が非課税となります。
なお、教育資金とは文部科学大臣が定める学校等に支払う入学金等が挙げられます。
適用対象者は、贈与者が直系尊属で、受贈者が30歳未満の所得金額1,000万円以下の直系卑属になります。
この制度の適用を受けるためには、受贈者が教育資金非課税申告書を金融機関を経由して税務署へ提出する必要があります。

④結婚・子育て資金贈与の非課税制度
2015年4月1日から2023年3月31日までの間に、18歳以上50歳未満の受贈者の結婚・子育て資金に充てるために直系尊属が資金を贈与した場合、1,000万円(結婚資金の場合は300万円)までは贈与税が非課税となります。
適用対象者としては、贈与者が直系尊属であり、受贈者が18歳以上50歳未満の所得金額が1,000万円以下の直系卑属になります。
この制度の適用を受けるためには、受贈者が結婚・子育て資金非課税申告書を金融機関を経由して税務署へ提出する必要があります。

◆贈与税を節税する方法

生前贈与の節税方法として、贈与税の基礎控除額である110万円の範囲内で贈与を行う方法があります。
この生前贈与をすることで相続財産を減らすことができるため、相続税対策としてよく行われます。
以下では生前贈与をした場合のメリットとデメリットについて解説します。

・生前贈与のメリット
生前贈与のメリットとしては下記のものが挙げられます。
①相続財産を減らすことができるので、相続税の減額に繋がります。
②相続が発生した場合は遺産の相続人が決まっているのに対して、生前贈与の場合は誰に財産を贈与するかは自由です。

・生前贈与のデメリット
生前贈与のデメリットとしては下記のものが挙げられます。
①生前贈与をした際に贈与契約書がないと、税務調査が入った場合に否認される可能性があります。
②相続税対策として多くの財産を贈与した場合には、贈与者の生活を圧迫してしまう可能性があります。
③生前贈与を行ってから3年以内に相続が発生した場合、贈与財産は相続財産の対象となります。

◆贈与税を申告しないとばれてしまう理由について

贈与により財産を取得した場合には、贈与税を申告しないと税務署にバレてしまう可能性が非常に高いです。
バレてしまうケースとしては下記のような原因が挙げられます。
➀贈与した人が亡くなったことによりバレるケース
贈与者が亡くなった場合には相続税の申告が必要です。
相続人の預金通帳を過去から確認し、高額な資金の引き出しが発覚した場合にはその振替先はどこかを確認します。
贈与していた場合、その資金は贈与税の課税対象になるため、申告していなければバレてしまうことになります。

②不動産を取得したことによりバレるケース
不動産を取得したとき、税務署が贈与を把握するきっかけとして、購入者に「お尋ね」という文書を送ることがあります。
このお尋ねには、購入金額や購入者の所得、購入者の職業、購入資金の出所などの項目が記載されています。
このお尋ねにより、購入者の所得に見合った不動産の購入金額であるか、もし所得に見合っていない場合には親族からの資金援助があったのではないかと想定できるため、贈与税の申告があったかどうかもバレてしまう可能性があります。

③法定調書によりバレるケース
年末に作成する法定調書では、支払額が高額な場合は税務署に支払先を伝える文書を提出します。
これにより、支払先で確定申告していない場合には申告漏れがバレてしまう可能性があります。
上記のように申告していない場合は発覚しますし、ペナルティも発生します。そのため、基本的にはバレないだろうという判断をするのではなく、期限内にしっかりと申告および納税をする必要があります。

◆贈与税の無申告が発覚した場合のペナルティについて

贈与税を法定納期限までに納めなかった場合や、贈与税を申告しなかった場合には、以下のペナルティが発生します。
延滞税とは、納付期限に遅れた場合に課される税金です。法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じ、以下の割合で延滞税が課されます。
令和4年1月1日から12月31日までの期間においては、法定納期限の翌日から2カ月経過する日までは、年2.4%となっています。
なお、法定納期限の翌日から2カ月経過した日以後は、年8.7%となっています。

過少申告加算税とは、本税の確定申告を法定納期限内に申告したものの、本来納めるべき納税額より少なかったために、修正申告や更正によって追加の納税額が発生した場合に課される税金です。
過少申告加算税の税率は、追加の納税額に対して10%が課されます。
また、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分に対しては15%が課されます。

無申告加算税とは、法定納期限までに確定申告をせず、さらに本来であれば納付すべき税額があった場合に課される税金です。
ただし、法定納期限から1カ月以内に自主的に確定申告を行い、納付すべき税額を納め、過去5年に無申告加算税や重加算税を課税されたことがなく、当初期限内申告をする意思があったと認められる場合には、無申告加算税は課税されません。
無申告加算税の税率は、追加の納税額の50万円までに対しては15%が課され、50万円を超える税額に対しては20%が課されます。
なお、税務署から指摘される前に納付した場合には5%の税率となります。

重加算税とは上記3つの税金が課される前提として、事実の全部または一部を仮装・隠蔽により確定申告を行ったと認識された場合に課される税金です。
重加算税の税率は、過少申告加算税や不納付加算税の代わりに追加納税額の35%が課されます。
また、無申告加算税が課される場合には、無申告加算税の代わりに追加納税額の40%が課されます。

◆まとめ

今回は贈与税がかからないケースから節税方法、申告しないとバレてしまうケースを紹介しました。
贈与税はバレないように思いますが、調査が入れば簡単にバレてしまい、のちにペナルティを支払うことになってしまいます。
そのようにならないように、贈与が発生した場合には、贈与税の申告を行うようにしましょう。わからない場合には管轄税務署や税理士へ相談することをおすすめします。

148 退職金を支払うことによる節税効果

法人税を低く抑えるためには、売上を下げるか、経費を多く支出するかで、所得を小さくする事により法人税を圧縮することが可能です。
近年は我が国において、高齢化が一層進んできており、世代交代や事業承継、相続税の申告案件が増えています。
そのような背景から、社長や従業員が退職するケースも多く見受けられ、退職金を支給する会社が増えてきているので、今回はこの退職金にスポットを当てて解説していきます。

◆退職金を利用した法人税の節税

この退職金は他の経費と異なり金額も多額であることから、法人税を圧縮するにあたって非常に大きなインパクトを与えます。
この退職金を実際にいくらまで出すことが出来るのか、会社で好きなように決めても良いのか、悩まされている社長は多くいます。
退職金は不当に多すぎると損金算入が認められず、税金を抑えることができません。

そこで法人税を小さくするためには、税務調査で否認されずに、いかに多く退職金を出せるかがポイントとなります。
次にこの退職金が費用として認められる妥当な金額について、役員へ支払う退職金を例に挙げて解説していきたいと思います。

退職金の支給額は、役員の立場にもよりますが、その役員の勤続年数、退職した事情、同規模同業種の支給額との乖離、役員の退職時における月額報酬などによって退職金の支給額が決定されます。

実際に退職金支給額は、下記算式によって算出されます。
役員退職金=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率※

※功績倍率は、役職によって次の通り決められています。
代表取締役 3.0倍
専務取締役 2.5倍
常務取締役 2.3倍
取締役   2.0倍
監査役   2.0倍

功績倍率は目安になります。
同規模同業種と比較して、不当に高額とならないように注意が必要です。

実際に月額報酬300万円を会社から受け取っている社長を例に挙げた場合、退職金をいくらまで会社は支払うことが出来るのか、以下解説していきます。
上述したように、社長は毎月の役員報酬を月額300万円受け取っており、社長がその会社の社長となった日から退職されるまでの勤続年数を30年と仮定します。

その場合の退職金は以下の算式により計算することが出来ます。

300万円×30年×3.0倍=2億7,000万円

上述した社長の場合には、2億7,000万円までの範囲内であれば退職金を会社から受け取っても、税務調査があった場合に否認される可能性は少ないと考えられます。
しかし、中小企業の場合に退職金を2億7,000万円も支給する会社は多くはありません。
よって、実務上では同規模同業種の会社と比べて不当に高くないかといった視点から税務調査では指摘されることもあります。

ただし、退職金を支給した会社が毎年多くの利益を捻出している会社であれば、少しでも会社の法人税を低く抑える為に多くの経費を支出したいと考えます。
よって、顧問税理士にもよりますが、上述した社長であれば、一度算式通りの退職金を支出し、税務調査が入った際に上記の根拠によって退職金を計算したと調査官へ伝えれば、調査官によっては2億7,000万円の退職金を認めることもあると考えられるので、支給する退職金が高額となっても、上述した計算方法で算定された退職金を支出することも節税という観点からは一つの節税対策となります。

仮に税務調査で絶対に否認されたくないと会社側が考えるのであれば、上述した計算方法の他に、同規模同業種の会社では、社長に対する退職金をどの程度支出しているのか調べたうえで、他の会社と不当に乖離しない金額の退職金を支出することをおすすめします。

◆退職金の受給方法

ここでは、退職金を受給する側の立場に立って、どのように退職金を受け取ることが出来るのか解説していきます。
退職金をもらう方法には、全額を一括でもらう一時金型と毎年少しずつ受け取る年金型があります。
一時金型と年金型ではそれぞれのメリット・デメリットがあるので、以下解説していきます。

①一時金型のメリット・デメリット
退職金の全額を一括で受け取る一時金型のメリットは、年金型と比べて税負担を軽くすることができる点です。
税負担が年金型と比べて軽く出来る理由として、退職所得の計算方法が税制上、優遇されているためです。
退職所得は下記算式により計算されます。

(収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得

なお、退職所得控除額は、勤続年数が長ければ長いほど増加します。

実際に3,000万円の退職金を勤続年数30年のAさんが受け取った場合の課税対象となる退職所得は以下の通りです。

3,000万円-(40万円×20年+70万円×(30年-20年)×1/2=750万円

上記計算より、3,000万円の退職金に対して課税される退職所得は750万円であるため、税制上、非常に優遇されていることがわかります。

一時金型のデメリットとしては、年金型に比べて一時金型の方が受取額が少ない点です。
理由として、年金型の場合にはまだ受け取っていない退職金については金融機関において運用に回します。
よってその分、受取額も増加するのが一般的であることが考えられるためになります。

②年金型のメリット・デメリット
年金型のメリットとしては、一時金型のデメリットでも解説したように、年金型の場合には、全額を退職金として支払うのではなく、分割して支払っていきます。
そのため、支払っていない分の退職金については金融機関において運用へ回します。
よって、一時金型に比べて運用益の分だけ退職金が増加するので、長い期間をかけて退職金を受け取る場合には年金型の方が有利になります。

年金型のデメリットとしては、こちらも一時金型のメリットで解説したように、年金型の場合には、一時金型に比べて税負担が多くなる可能性があります。
一時金型の場合には、退職金を受け取るにあたり、退職所得控除という税制上の優遇措置がありますが、年金型の場合にはそのような優遇措置はなく、毎年、受け取った際には雑所得として、アルバイトやパートなどの収入がある場合には、これらと合算して税額計算を行います。

以上のように、退職金を一時金型で受け取るか、年金型として受け取るかは、退職金を一括か分割かいずれで受け取るかによって、課税方法も変わってきます。
どちらもメリット・デメリットがあるので、各人の生活スタイルに合った方法で受給するのが良いかと思います。
一時金型と年金型を組み合わせて受け取る方法も可能なので、老後生活をどのようにしたいか検討して受け取る方法を選択すべきです。

◆退職金の所得税計算方法

退職金を一時金型で受け取る場合と、年金型で受け取る場合のメリットとデメリットについては上述した通りですが、両者の違いは所得税の計算方法にも違いがあります。

一時金型の場合には、退職所得として申告分離課税という他の所得と分離して税額が計算される方法で所得税が計算されます。

年金型の場合には、雑所得として総合課税という他の所得と合算して税額が計算される方法で所得税が計算されます。

では実際に数値を用いて、一時金型と年金型による両者の所得税を計算したいと思います。
3,000万円の退職金が支払われる場合、一時金型では上述した計算により退職所得が750万円になります。

よって退職金に対する源泉所得税は、(750万円×23%-636,000円)×102.1%=1,111,800円(百円未満切り捨て)となります。

退職金を年金型として受給した場合には、受給時の年齢にもよりますが、仮に65歳以上であり、毎年300万円ずつ受けとる場合には、一回の受取時における所得税は下記の方法により計算されます。

300万円−110万円=190万円が、課税対象となる雑所得となります。
よって、納めるべき所得税は190万円×5%=95,000円が納税額となります。

◆退職所得の受給に関する申告書について

退職所得の受給に関する申告書とは、退職金を受け取った人が退職金の支払者である勤務先に対して提出する申告書となります。
この申告書を提出することによって、上述したような退職所得や退職金に対する源泉所得税が適正に計算することが可能となります。

退職所得の受給に関する申告書は、上述したように提出先は退職金の支払者へ提出することとなります。
また、提出期限については、退職金の支払者は、退職所得の受給に関する申告書を受け取った後に源泉徴収額の計算を行うため、退職金の支払処理が開始する前までには提出する必要があります。
添付書類としては必ずしも全ての人が必要であることはないのですが、他の勤務先から同年中に退職金の支払いを受けている人であれば、退職所得の源泉徴収票の添付が必要になります。
その他、障害者であれば障害者手帳のコピー、生活扶助に該当している人であれば生活保護決定通知書のコピーを添付する必要があります。

退職所得の受給に関する申告書を提出しなかった場合には、退職所得控除の適用を受けることが出来ないので、必ず提出する必要があります。
仮に提出を忘れた場合には、確定申告により還付金を受け取ることが可能ですが、原則として提出しておくべきです。

◆まとめ

以上が、税務上考えられる退職金となります。
実務上、退職金をいくら支出すべきか悩まれる会社は数多くあります。
その場合には、税理士へ相談し、税務調査の際に否認されることのないように妥当な金額を退職金として支出することをおすすめします。

147 相続専門税理士の選び方

我が国は近年、高齢化社会となっており、内閣府が公表する「高齢社会白書」によると、令和2年10月1日時点での総人口は1億2,571万人とされております。
そのうち、65歳以上の人口は3,619万人であり、総人口の占める割合のうち28.8%と、過去最高を更新しております。
また、国税庁は令和3年12月に「令和2年分における相続税の申告事績の概要」を公表しました。
これによれば相続税の課税件数は8.8%と、過去最高を更新していることから、今後、相続税の申告件数増加に伴い、税理士へ依頼する件数も増えていくと予想されます。
このような状況において、今回は相続が発生した場合、どういった時に税理士へ依頼した方が良いのか解説していきます。

◆相続に関して税理士に依頼したい!税理士選びが必要な場合と必要ない場合をご紹介!

相続に関して税理士選びが必要な場合は、下記の通りです。
・相続財産は現預金だけでなく、相続人が所有していた土地や建物などの不動産を所有していることが一般的です。
この不動産についても相続財産として相続税を納めるにあたり相続税評価額に含める必要があります。
不動産は現預金と異なり、不動産の評価をする際、所有している物件の周囲環境や所有件数によって相続税評価額の計算が複雑になります。
その為、評価額の計算を行う税理士によって、評価額の計算に大きく違いが出てくるので、相続税の納税額に大きく影響してきます。
よって相続が発生した場合、不動産を所有している際には相続税に強い税理士選びが重要となります。
・相続する財産が多額になればなるほど、正確な相続財産の評価が必要になります。
評価額の計算が大きく誤っていた場合、追徴税や加算税を納税する必要がある為、追加で納める相続税も多額になってきます。
その為、相続財産が多額である場合には相続税に強い税理士選びが必要となります。
・遺産分割協議がまとまりそうな場合、税理士へ依頼した方が良いです。
遺産分割協議がまとまっていない場合に税理士へ依頼してしまうと、弁護士法第72条の非弁行為となることから、税理士が遺産分割協議書を作成するのは禁止されております。
よって税理士に依頼するのは遺産分割協議がまとまった後、相続税の計算や節税を依頼したい場合に必要となります。
・相続税の還付を受けたい場合、税理士へ依頼する必要があります。
上述したように土地などの不動産を多く所有している場合、税理士によって評価額は大きく異なってきます。
既に相続税の申告が済んでいる人でも、相続により取得した財産で広い土地や複数の土地など、高額な土地を相続により取得した場合には、申告期限から5年以内であれば相続税の還付対象となります。
また、相続税の申告を相続専門ではない税理士へ依頼した場合にも、相続専門の税理士へ評価を依頼した方が相続税評価額は大幅に下がり、相続税額も節税出来る可能性が高いです。
よって、相続財産に不動産が多い場合や、相続専門の税理士に依頼せずに相続税の申告をした人は、相続税の申告期限から5年以内であれば、還付を受ける事が可能なので、相続専門の税理士へ依頼する必要があります。

相続が発生しても税理士に依頼する必要がない場合は下記の通りです。
・相続税を算定する課税価格が、相続財産に係る基礎控除額の範囲内であれば、相続税の申告は不要となる為、税理士へ依頼する必要はありません。
相続財産に係る基礎控除額とは、現在の相続税法では「3,000万円+法定相続人の数×600万円」となっております。
例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合には「3,000万円+3人×600万円=4,800万円」までの相続財産であれば相続税の申告は不要となる為、税理士へ依頼する必要はありません。

◆相続に強い税理士は費用も高い?相場をチェック!

相続税の知識や経験が豊富な税理士へ依頼する場合、税理士報酬の相場について解説致します。
一般的に、税理士報酬の相場は相続財産の0.5%~1%となります。
ただし、下記項目に該当する場合には、上記相場に報酬が加算されます。
・相続財産に占める割合のうち、土地の評価額が高い場合
・相続財産に非上場株式の評価をする必要がある場合
・申告期限まであまり時間がない為、急いで作業しなければならない場合
・相続税の計算をする上で必要書類が多いなど、作業が煩雑な場合
このような場合には、相場の報酬に加算されるケースもあります。
では相続に強い税理士へ依頼する場合、さらに報酬が加算されるのかというと、そういったことはありません。
むしろ、相続に慣れていない税理士へ依頼した方が報酬は高くなってしまう場合があります。
理由としては、相続に慣れていない税理士の場合には、相続に対する報酬規程を作成していないことも多い為、必要以上に報酬を高く設定されてしまう場合があるからです。

◆相続に関して税理士に依頼するメリット・デメリットとは

相続が発生した場合、税理士へ依頼するメリットとデメリットについて下記項目が挙げられます。
〇メリット
・相続税の申告にあたりミスを防止することができる。
・節税対策をしてくれる。
・税務調査に入られるリスクが減少する。
・時間と労力をかける必要がなくなる。
〇デメリット
・税理士報酬が発生する。
・相続に強い税理士を探すのに手間がかかる。
・税理士に依頼しても予想通りの税額にならない可能性がある。

◆相続税に強い税理士の選び方・見極め方・探し方とは

・相続税に強い税理士の選び方・見極め方について
医師が内科、外科、眼科、皮膚科など様々な分野において個々に専門分野があるように、税理士も所得税、法人税、消費税、相続税などの得意分野があります。
素人からしてみれば、税理士は税金のプロなので、税金の事なら何でも知っているという認識があるかと思います。
しかし、実際は税理士でも得意分野は様々なので、相続に強い税理士を、素人が判断するのは非常に見極めるのが難しいです。
そこで、素人でも相続に強い税理士の選び方・見極め方をご紹介致します。
相続に強い税理士の選び方は、下記のようなポイントに意識して調べてみることをおすすめします。
・税理士事務所のホームページで、年間の相続税申告実績数を確認する。
税理士事務所のホームページを確認すると、「相続税の年間申告件数○○件!」などと謳っている税理士事務所があります。
相続税の申告件数は年々増えており、国税庁の「令和2年分における相続税の申告事績の概要」によれば、令和2年分の相続税の申告書を提出した件数は120,372件であり、令和2年12月31日時点の税理士登録者数が79,293人なので、1人の税理士が相続税の申告を年間で1.5件取り扱うことが予想できます。

上記基準を把握したうえで、この税理士事務所は年間何件の相続税の申告を行っているのか調べるのが相続に強い税理士を選ぶにあたり、重要なポイントになります。
・相続税に特化した税理士事務所であることを確認する。
税理士事務所によっては、法人税や所得税などの税務業務は一切受けておらず、相続税に特化した税理士法人も一定数存在します。
こういった税理士法人であれば、オールマイティーな税務業務を受けている税理士事務所に比べて、相続税の申告件数を数多く経験しており、相続税の知識が豊富な税理士が多数在籍しているので、相続税に特化した税理士事務所を選ぶ事もおすすめの選び方となります。

相続税に強い税理士の探し方について
・税理士事務所のホームページを確認する方法
こちらについては、相続税に特化した税理士事務所であることをホームページ上で確認することです。
上述したように、相続税専門の税理士事務所であれば、相続税に関する知識や経験が豊富です。
ホームページで税理士を探す場合には、税理士事務所自体の業務が何を得意としているか確認する方法が一番相続税に強い税理士を探す上で、効率的な方法です。
・知人などの紹介
一番手っ取り早く、かつ、おすすめなのが知人からの紹介となります。
実際にその税理士に相続税の申告を既に受けたことのある知人から紹介される税理士である場合には、とても信憑性もあり、探す手間も省ける為、この方法が一番おすすめな探し方となります。

◆税理士選びで失敗してしまうポイントを注意点とともにご紹介!

前述した税理士選びをする際に、気を付けておくべきポイントを最後にいくつかご紹介したいと思います。
・知人というだけで依頼した場合
たまたま知人が税理士だった、という場合にその税理士に相続税の申告を依頼してしまうのはおすすめしません。
知人なので税理士報酬を安くしてくれる場合も多く、お願いしたくなる気持ちもわかります。
しかし、相続財産が多額である場合、いくら税理士報酬を安くしてくれたとはいえ、その税理士に相続税の申告経験があまりなければ、かえって相続税額が高くなってしまいます。
いくら税理士報酬が安いとはいえ、相続税額と税理士報酬を合わせた支払いが高くなってしまえば元も子もないので、相続税の申告を依頼する場合には、相続税に強い税理士へ依頼することをおすすめします。
・相続税の経験が少ない税理士へ依頼する場合
こちらについても上述した通り、個々の医師に得意な専門分野があるように、税理士にも個々に得意な専門分野があります。
相続税の評価は10人の税理士がいた場合、10通りの評価額が計算されると言われるほど相続税の評価額が異なってきます。
その為、相続税の申告をする際に高額な相続税額を納める事を回避するためにも、くれぐれも相続税の経験が少ない税理士へ依頼するのはおすすめしません。
以上より、相続が発生した場合、相続財産を多額に保有している場合には、節税は勿論のこと、時間や労力も考えると相続税に強い税理士に依頼することが賢明です。

◆まとめ

今後、高齢化社会は益々進んでいくので相続税に強い税理士が活躍する場面は増えていくと考えられます。
相続が発生した場合には、税理士選びを慎重に行うことをおすすめ致します。

146 従業員を雇う際の手続き

従業員を新たに雇用した場合には、入社時において社会保険や雇用保険の加入手続きや所得税や住民税の手続きを行う必要があります。
以下では、これらの手続きを行うにあたって、どういった書類を準備して、いつまでにどこへ提出すべきなのかといったことについて解説していきたいと思います。

◆雇用した際の必要書類について

従業員を新たに雇用した際に必要となる書類は、下記の通りです。
・雇用保険被保険者証
・年金手帳
・従業員の住民票
・給与所得者の扶養控除等申告書
・マイナンバー
・健康診断書
上記書類が一般的には必要となります。
なお、中途採用をした従業員の場合には、前職の源泉徴収票が必要になります。

上記書類の他、従業員と使用者との間で労働契約を交わすにあたり重要になる書類が、雇用契約書や労働条件通知書になります。
雇用契約書も労働条件通知書も、従業員と使用者間において労働に関するルールなどが記載されているものになりますが、両者の違いとしては、雇用契約書は従業員と使用者とがそれぞれ署名、押印する必要があるのに対して、労働条件通知書は従業員へ使用者が労働に関する条件を開示しているものであることから、署名、押印は使用者のみで足りております。
新たに従業員を雇用した場合には、雇用契約書もしくは労働条件通知書のいずれかを従業員へ開示する必要があります。

◆社会保険や労働保険に加入する人とは

社会保険や労働保険に加入する基準としては、正社員、パートタイマーといった呼称ではなく、労働時間、雇用形態を主とする就労の実態で判断します。
なお、国籍の如何を問わず、外国人でも上記就労の実態で判断します。

次に社会保険の加入基準について解説いたします。
①健康保険・厚生年金の場合
次のどちらの条件を満たす場合には、常用的に雇用関係があるとみなされ、社会保険に加入する必要があります。
・1週間の所定労働時間が、その事業所で同じ種類の業務に従事する一般従業員の所定労働時間の4分の3以上の者。
・1ヵ月の所定労働日数が、その事業所で同種の業務に従事する一般従業員の所定労働日数の4分の3以上の者。

②労災保険の場合
労働時間がどんなに短いアルバイトでも、労災は適用となります。
労災保険は、個々の従業員について加入手続きは不要です。

③雇用保険の場合
次のどちらの条件も満たす場合には加入が必要となります。
・1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
・31日以上の雇用見込みがあること。

◆社会保険や労働保険の加入手続き

社会保険へ加入するための手続きは、新しく従業員を雇用した日から5日以内に管轄の年金事務所で行います。
加入時に提出する書類は、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届になります。
なお、扶養家族がいる場合には健康保険被扶養者異動届を提出する必要があります。
また、扶養家族のうち20歳以上60歳未満の配偶者がいる場合には、国民年金第3号被保険者関係届を提出する必要があります。
年金手帳を紛失している場合には、年金手帳再交付申請書を提出する必要があります。

労働保険の加入手続きについては、手続きの順序があります。
まず、労災保険の手続きを完了した後に、雇用保険の手続きを行います。
労災保険→雇用保険の順に手続きをしないと、手続きを完了することができません。
労災保険の手続きとして、保険関係成立届と概算・増加概算・確定保険料申告書を管轄の労働基準監督署に提出します。
そうすると、労働保険番号が振り出されます。
この労働保険番号は事業所ごとに振り出される番号で、今後の給付申請や諸手続きの際に必要となる大切な番号になります。

雇用保険の手続きは、労災保険の手続きで振り出された労働保険番号を、雇用保険適用事業所設置届に記載して、管轄のハローワークに提出します。
同時に雇用保険被保険者資格取得届を提出し、従業員の加入手続きも行います。
手続き後には、事業所番号が記載された雇用保険適用事業所設置届事業主控えが発行されます。
こちらも、今後の雇用保険の諸手続の際に必要となる大切な番号となります。

◆従業員を雇用した際の所得税・住民税の手続き

社会保険や労働保険の手続きが完了したら、次に税金に関する手続きが必要になります。
税金に関する手続きとしては、所得税に関する手続きと住民税に関する手続きがあります。
まず、所得税の手続きとしては、従業員が入社した際には、従業員の給料から毎月差し引く源泉所得税を計算するために、給与所得者の扶養控除等申告書を提出してもらう必要があります。
事業主側では、それに基づいて源泉徴収簿の作成をします。

住民税の手続きについて、住民税は、前年の所得に対して課税されるため、前年の所得がない場合には、入社してから翌年の5月末まで住民税は発生しません。

前職がある場合は、従業員の住民税の納付方法が、普通徴収か、特別徴収かにより、必要な手続きが異なります。
現在、普通徴収により納付している場合には、会社で新たに特別徴収を行う場合には、未使用の住民税の納付書もしくは納付済みの領収書と特別徴収への切替申請書を管轄の市区町村が定めている期限までに提出する必要があります。
一方で、現在、特別徴収により納付しており、継続して特別徴収を希望する場合には、特別徴収にかかる給与所得者異動届出書を管轄の各市区町村の定めている期限までに提出します。

◆結論

新たに従業員を雇用した場合には、労働条件を明示する事の他に、社会保険や労働保険、所得税や住民税などの手続きが必要になってくるので、各書類を提出期限までに申請するようにしましょう。