149 贈与税がかからないケースについて

2023年8月23日

相続税の申告が増加していることから、国は相続税対策を強化するために力を入れてきています。納税者側としては、税金の支払いを極力避けるために、相続税対策として生前贈与が頻繁に行われています。生前贈与をした場合には申告が必要なのか、また贈与税がかからない方法としてどのような方法があるかを解説していきます。

◆110万円を超えない贈与の場合における贈与税の取り扱い

 

贈与税とは、自分が所有している現預金や不動産などの財産を他の人へ無償で譲渡した場合に、譲渡した財産が一定額以上であると課される税金です。
暦年である1月1日から12月31日までの間に一定額以上の財産を贈与された場合、翌年3月15日までに贈与税を納める必要があります。
この贈与税には基礎控除という非課税枠が設けられています。
基礎控除額は110万円とされているため、110万円以下か110万円以上かで贈与税が課されるか否かが決まります。
そのため、110万円を超えない財産の贈与を受けた場合には、贈与税がかかりません。

◆贈与税をかけずに贈与する方法について

 

前述したように、財産を他の人へ無償で譲渡した場合には贈与税がかかりますが、一定の条件を満たしていれば、贈与税をかけずに贈与することができます。
➀基礎控除内での贈与
前述したように、贈与税の基礎控除額は110万円とされています。
そのため、110万円以下の財産を贈与された場合には贈与税は課されません。

②扶養義務者からの生活費等の贈与
夫が妻へ生活費を送る行為や親が子の教育資金を負担する行為は贈与となります。
これらは「日常生活に必要なもの」として、贈与税が非課税とされています。
もともと夫婦や親子間には扶養義務があり、生活費や教育資金を送ることは当然の責務であるので、税法でわざわざ非課税規定を設ける必要はないのではと考える人もいるかもしれません。
しかし、このような非課税規定を設けておかないと、生活費や教育費といった名目で多額の財産を妻や子へ贈与する場合に一円も課税されないこととなります。
そのような事態を防止するために、非課税規定として設けられたと考えられます。

③香典等の贈与
香典や結婚式のご祝儀、お中元やお歳暮なども贈与になります。
これらはその性質上必要なものであり、国民感情を考慮しても課税することは適当とは言えません。
そのため、贈与税の取り扱い上「贈与者と受贈者との関係に照らして社会通念上、相当と認められるもの」に対しては贈与税がかからないとされています。

④法人との間の贈与
贈与税は個人間の取引において財産を取得した側が納める税金であるため、法人との取引において財産を取得した場合には贈与税はかかりません。しかし所得税はかかります。

◆贈与税の特例を活用するケース

 

➀相続時精算課税制度
相続時精算課税とは、生前に贈与があり、納税者が相続時精算課税制度の利用を選択した場合、贈与時に贈与財産に対する贈与税を支払い、その後に相続が発生した際、贈与財産と相続財産とを合計して計算した相続税から、既に支払った贈与税を控除することで、相続税と贈与税を通じた納税を行う制度になります。
なお、相続時精算課税における贈与税は相続税の前払い的な性質のものになるため、相続税を超える部分については還付を受けることができます。
この相続時精算課税の適用対象者は、贈与者が60歳以上の親や祖父母で、受贈者が18歳以上の推定相続人および孫になります。
相続時精算課税の適用を受けるには、受贈者が贈与を受けた年の翌年3月15日までに相続時精算課税選択届出書を納税地の所轄税務署長へ提出する必要があります。

②住宅取得等資金贈与の非課税制度
親や祖父母などの直系尊属から住宅取得のための資金の贈与を受けた場合、一定の金額までは非課税となります。
住宅取得等資金贈与の非課税制度の適用対象者は、贈与者が直系尊属であり、受贈者が18歳以上の直系卑属になります。
ただし、贈与を受けた年において受贈者の合計所得が2,000万円を超える場合には、この特例の適用を受けることができません。
適用を受けるには、住宅取得等資金を贈与された年の翌年3月15日までに住宅家屋を新築して居住し、将来的にも居住の用に供する見込みである場合に適用されます。
また、この特例の適用を受けるためには、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与税の申告書に特例の適用を受ける旨を記載し、一定の書類を添付して申告する必要があります。

③教育資金贈与の非課税制度
2019年4月1日から2023年3月31日までの間に、30歳未満の受贈者の教育資金のために直系尊属が資金を贈与した場合、1,500万円までは贈与税が非課税となります。
なお、教育資金とは文部科学大臣が定める学校等に支払う入学金等が挙げられます。
適用対象者は、贈与者が直系尊属で、受贈者が30歳未満の所得金額1,000万円以下の直系卑属になります。
この制度の適用を受けるためには、受贈者が教育資金非課税申告書を金融機関を経由して税務署へ提出する必要があります。

④結婚・子育て資金贈与の非課税制度
2015年4月1日から2023年3月31日までの間に、18歳以上50歳未満の受贈者の結婚・子育て資金に充てるために直系尊属が資金を贈与した場合、1,000万円(結婚資金の場合は300万円)までは贈与税が非課税となります。
適用対象者としては、贈与者が直系尊属であり、受贈者が18歳以上50歳未満の所得金額が1,000万円以下の直系卑属になります。
この制度の適用を受けるためには、受贈者が結婚・子育て資金非課税申告書を金融機関を経由して税務署へ提出する必要があります。

◆贈与税を節税する方法

生前贈与の節税方法として、贈与税の基礎控除額である110万円の範囲内で贈与を行う方法があります。
この生前贈与をすることで相続財産を減らすことができるため、相続税対策としてよく行われます。
以下では生前贈与をした場合のメリットとデメリットについて解説します。

・生前贈与のメリット
生前贈与のメリットとしては下記のものが挙げられます。
①相続財産を減らすことができるので、相続税の減額に繋がります。
②相続が発生した場合は遺産の相続人が決まっているのに対して、生前贈与の場合は誰に財産を贈与するかは自由です。

・生前贈与のデメリット
生前贈与のデメリットとしては下記のものが挙げられます。
①生前贈与をした際に贈与契約書がないと、税務調査が入った場合に否認される可能性があります。
②相続税対策として多くの財産を贈与した場合には、贈与者の生活を圧迫してしまう可能性があります。
③生前贈与を行ってから3年以内に相続が発生した場合、贈与財産は相続財産の対象となります。

◆贈与税を申告しないとばれてしまう理由について

贈与により財産を取得した場合には、贈与税を申告しないと税務署にバレてしまう可能性が非常に高いです。
バレてしまうケースとしては下記のような原因が挙げられます。
➀贈与した人が亡くなったことによりバレるケース
贈与者が亡くなった場合には相続税の申告が必要です。
相続人の預金通帳を過去から確認し、高額な資金の引き出しが発覚した場合にはその振替先はどこかを確認します。
贈与していた場合、その資金は贈与税の課税対象になるため、申告していなければバレてしまうことになります。

②不動産を取得したことによりバレるケース
不動産を取得したとき、税務署が贈与を把握するきっかけとして、購入者に「お尋ね」という文書を送ることがあります。
このお尋ねには、購入金額や購入者の所得、購入者の職業、購入資金の出所などの項目が記載されています。
このお尋ねにより、購入者の所得に見合った不動産の購入金額であるか、もし所得に見合っていない場合には親族からの資金援助があったのではないかと想定できるため、贈与税の申告があったかどうかもバレてしまう可能性があります。

③法定調書によりバレるケース
年末に作成する法定調書では、支払額が高額な場合は税務署に支払先を伝える文書を提出します。
これにより、支払先で確定申告していない場合には申告漏れがバレてしまう可能性があります。
上記のように申告していない場合は発覚しますし、ペナルティも発生します。そのため、基本的にはバレないだろうという判断をするのではなく、期限内にしっかりと申告および納税をする必要があります。

◆贈与税の無申告が発覚した場合のペナルティについて

贈与税を法定納期限までに納めなかった場合や、贈与税を申告しなかった場合には、以下のペナルティが発生します。
延滞税とは、納付期限に遅れた場合に課される税金です。法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じ、以下の割合で延滞税が課されます。
令和4年1月1日から12月31日までの期間においては、法定納期限の翌日から2カ月経過する日までは、年2.4%となっています。
なお、法定納期限の翌日から2カ月経過した日以後は、年8.7%となっています。

過少申告加算税とは、本税の確定申告を法定納期限内に申告したものの、本来納めるべき納税額より少なかったために、修正申告や更正によって追加の納税額が発生した場合に課される税金です。
過少申告加算税の税率は、追加の納税額に対して10%が課されます。
また、期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分に対しては15%が課されます。

無申告加算税とは、法定納期限までに確定申告をせず、さらに本来であれば納付すべき税額があった場合に課される税金です。
ただし、法定納期限から1カ月以内に自主的に確定申告を行い、納付すべき税額を納め、過去5年に無申告加算税や重加算税を課税されたことがなく、当初期限内申告をする意思があったと認められる場合には、無申告加算税は課税されません。
無申告加算税の税率は、追加の納税額の50万円までに対しては15%が課され、50万円を超える税額に対しては20%が課されます。
なお、税務署から指摘される前に納付した場合には5%の税率となります。

重加算税とは上記3つの税金が課される前提として、事実の全部または一部を仮装・隠蔽により確定申告を行ったと認識された場合に課される税金です。
重加算税の税率は、過少申告加算税や不納付加算税の代わりに追加納税額の35%が課されます。
また、無申告加算税が課される場合には、無申告加算税の代わりに追加納税額の40%が課されます。

◆まとめ

今回は贈与税がかからないケースから節税方法、申告しないとバレてしまうケースを紹介しました。
贈与税はバレないように思いますが、調査が入れば簡単にバレてしまい、のちにペナルティを支払うことになってしまいます。
そのようにならないように、贈与が発生した場合には、贈与税の申告を行うようにしましょう。わからない場合には管轄税務署や税理士へ相談することをおすすめします。