150 贈与税がバレるリスクについて

2023年8月24日

相続税改正前は5,000万円+1,000万円×法定相続人の数が基礎控除額とされていました。
しかし、相続税改正後の平成27年1月1日以降は3,000万円+600万円×法定相続人の数に基礎控除額が引き下げられました。
それに伴い、相続税の課税を免れるために生前贈与が増加しております。
本稿ではこの贈与税について解説していきます。

◆贈与税とは

最初に、贈与税はどういった場合に発生するのか、贈与税の課税対象者はどういった者が該当するのか解説していきたいと思います。
贈与税とは、個人から無償で財産を取得した場合において、その取得した財産に対して課税されるものとなります。
この贈与税は、相続税を補完するために作られたものになります。
相続税は、ある人が死亡した時点におけるその死亡した人の遺産に課税するものです。
その死亡した人が生前に財産を子供などに贈与すると、その贈与した財産には相続税を課税することが出来ないという問題が生じます。
そこで、生前の贈与財産に贈与税を課税することにより相続税を補完する必要があるという考え方によるものです。
贈与税は相続税に比べて税率が高くなっており、基礎控除額も相続税に比べて低く設定されております。
このことから、同額の財産を取得した場合、相続税に比べて贈与税の方が多くの税金を納める必要になるので、容易に財産を移すことを認めず、相続税が課税出来るようになっております。

◆贈与税の課税対象者

贈与税の課税対象者は、基礎控除額である110万円を超えた財産を贈与により取得した者となります。
ポイントは基礎控除額110万円ということです。
これは贈与者から受けた財産が110万円の範囲内であれば贈与税が課税されることはありません。
しかし、2人から110万円ずつ贈与を受けた場合、受贈者は220万円の財産を受けた事になるので、この場合には110万円を超えているため、贈与税が課税されます。

◆贈与税がかかるケースについて

贈与税は相続税を補完することを目的としたものであります。
それでは具体的に贈与税が課税されるケースにはどういったものがあるのか具体例を挙げて解説していきたいと思います。
贈与税がかかるものとしては、基本的に贈与によって取得した110万を超える下記内容のものが挙げられます。
・生活費や学費の為に使用する目的ではない現預金。
・株などの有価証券
・土地や家屋などの固定資産
・営業権や会員権など
このように、基本的には110万円を超えた全ての財産を取得した場合には贈与税が課税されます。
ただし、後述しますが法律上決められた一定のものについては非課税財産として贈与税がかからないものもあります。

◆みなし贈与財産とは

贈与税が課税されるケースは、無償で110万円超の財産を取得した場合が挙げられます。
しかし、下記内容については贈与のようには見えませんが、みなし贈与財産として贈与税の課税対象となります。
・生命保険金
生命保険金について、死亡や満期で保険金を受け取った場合、保険金の受取人以外の者が負担した保険料に対応する保険金は、みなし贈与財産として、保険金の受取人に贈与税が課税されることになります。
・債務免除による利益
子供が返済すべき借金を親が肩代わりすることになった場合、子供は親から肩代わりしてもらった借金と同額を親から譲り受けたことになります。
この場合、子供に対してみなし贈与財産があったものとして贈与税が課税されます。
・財産の名義変更
不動産や株式の名義変更があった場合、金銭の授受が行われていない場合や他の人の名義で不動産や株式を譲り受けた場合には、みなし贈与財産があったとして贈与税が課税されます。

◆実務上よくみられる贈与税がかかる具体例

実務上、贈与税が課税されるケースとして、一般的によくみられる取引としては、親族間での取引が多くみられます。
具体的には下記項目が挙げられます。
・親から子や孫へ110万円を超えた金銭の贈与。
・これまで親が保険料を支払っており、満期や解約により、保険金が子へ移った場合。
・子の借金を親が肩代わりしてくれた場合。
税法は、いくらもらったかではなく、いくら得したかで考えます。
よって、財産を取得したケースのほか、借金の肩代わりをしてもらった場合も贈与税が課税されます。
実務上、贈与税が課税されるケースは、上記内容の取引が多く見られるものとなります。

◆申告漏れがバレるリスクについて

贈与により、財産を取得した場合には贈与税を納める必要があります。
ただし、上述したように贈与税がかかるケースは、親族間の取引が多いため、贈与税がかかる取引をしていても、贈与税を納税していない場合がある事も考えられます。
贈与税を納税していない場合に調査が入った際には、追徴税額の支払いなどが発生する為、必ず贈与税は納める必要があります。
ただし、親族間でのやり取りなのでバレないのではと思うかもしれません。
贈与税の申告漏れはどういった場合に発覚するのか、いくつか具体例を挙げて解説していきます。
・税務署からの「お尋ね」によりバレるケース
税務署が贈与を把握するきっかけとして、「お尋ね」という文書があります。
お尋ねには色々な種類のものがあり、その中で「お買いになった資産の買い入れ価格などについてのお尋ね」というものがあります。
これは土地や建物を取得した場合に、税務署が購入者へ送るものであり、このお尋ねには、購入金額や購入者の所得、購入者の職業、購入するための資金の出所などの質問が記載されております。
このお尋ねにより、購入者の所得に見合った不動産の購入金額であるか、もし所得に見合っていない場合には親族からの資金援助があったのではないか、と想定できる為、その場合に贈与税の申告があったかどうか確認することが出来ます。
よって、贈与税の申告がない場合には調査が入る可能性が高まります。
・関係者からの情報によりバレるケース
このケースはあまりありませんが、ないとも限りません。
例えば飲食店の会話で親から多額の資金を贈与されたなどの会話を税務署職員へ伝えた場合、税務署はその情報を元に税務調査を開始することもあります。
金額が多額であればその可能性は十分に高まりますので、気をつける必要があります。
・相続税の税務調査によりバレるケース
相続税の税務調査の段階で、生前に多額の贈与があった場合に、預金口座の入出金から発覚するケースが多いです。
相続税の税務調査の際には、過去7年分の預金の入出金を確認されることが多く、その過程の中で、相続税逃れのために生前贈与を行っていたことが発覚するケースがあります。
相続税逃れのために、生前贈与を繰り返していて、かつ贈与税の申告もされていない場合は、贈与税に対し重加算税が追徴課税される場合がありますので注意が必要です。
贈与税として認定されるケースとして、個人間の金銭の貸し借りを端緒としていることが多いので、個人間の金銭の貸し借りには、金銭消費貸借契約書や借用証書を取り交わすことをお勧めします。

◆贈与税未申告のペナルティーについて

贈与税が未申告であった場合のペナルティーとしては「過少申告加算税」、「無申告加算税」、「重加算税」が挙げられます。
・過少申告加算税
単なる計算ミスにより、本来納めるべき税額よりも低い税額を納めた場合にかかるペナルティーとして、過少申告加算税があります。
過少申告加算税とは、追加で納付すべき税額の10%を乗じた金額となります。
しかし、追加で納付すべき税額が、本来の税額と50万円を比較していずれか高い方を上回っている場合には、その上回った額に対しては15%を乗じた金額を納める必要になります。
・無申告加算税
無申告加算税とは、申告期限までに申告書を提出しなかった場合に課されるペナルティーとなります。
無申告加算税は、申告期限後、税務調査が行われる前までに、自主的に申告した場合には、本来の税額に5%を乗じた金額となります。
しかし、申告期限後、税務調査が行われた後に申告した場合には、本来の税額の50万円までは15%、50万円を超える部分については20%がペナルティーとなります。
・重加算税
悪意や隠蔽など、故意に申告漏れや無申告をした場合に課されるペナルティーが重加算税となります。
悪意や隠蔽などがあり、過少申告加算税が課税されるケースでは、本来追加で納めるべき税額に35%を乗じた金額が重加算税として課税されます。
悪意や隠蔽などがあり、無申告加算税が課税されるケースでは、本来追加で納めるべき税額に40%を乗じた金額が重加算税として課税されます。

◆贈与税がかかることを知らなかった場合の対処法

贈与税がかかることを知らなかった場合には、申告期限までに贈与税申告書を提出しなければなりません。
また、贈与税の申告には時効もありますので、以下では贈与税の申告期限と時効について解説します。

・贈与税の申告期限
贈与税の申告期限は、原則、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、納税者の住所地の所轄税務署へ提出する必要があります。
ただし、3月15日が休日の場合には、その翌日となります。
・贈与税の時効
贈与税の時効は、贈与税の申告期限の翌日から起算して5年間となっております。

◆非課税になるケースと非課税の贈与方法について

贈与税は基本的に財産を無償で取得した場合には課税されることを解説しました。
しかし、国民感情の観点から、一定の財産については贈与税が非課税となるケースがあります。
具体的には下記内容が挙げられます。
・生活費又は教育費
夫が妻に生活費を渡した、親が子の教育費を負担した、といったことも贈与ではありますが、これらは日常生活に必要なものであるため、非課税となります。
夫婦間や親子には扶養義務があるため、生活費や教育費を渡すことは当然なので、税法で非課税規定を設ける必要はないと考えられます。
しかし、このように非課税規定を設けておかないと、生活費や教育費といった名義で多額の財産を妻や子へ移してしまうと考えられます。
そこで、これらを防止するために非課税規定を設けたのです。
例えば、親が子へ500万円を渡して、子が300万円を自分名義の預金とした場合、通常教育費として必要な金額は200万円と考えられます。
そのため、300万円は日常生活に必要なものとは考えられないため、300万円に対して贈与税が課税されます。
・香典や祝い金など
香典や結婚式の祝い金、お中元やお歳暮なども贈与となります。
しかし、これらは通常必要なものであり、国民感情を考慮しても贈与税を課税するのは適当とは言えません。
そこで、贈与税では、贈与者と受贈者との関係に照らして、社会通年上、相当と認められるものは贈与税が非課税とされております。

◆まとめ

以上、贈与税が課税されるケースや非課税となるケースについて解説しました。
贈与税は非課税規定を除き、基本的には無償で財産を取得した場合には課税されるため、金額が高額なものの贈与を受けた場合には、贈与税を期限内に納めるように意識しておくことが、後にペナルティーを避けるためにも重要となってきます。