151 配偶者居住権による相続税の節税について

2023年8月25日

およそ40年ぶりの民法改正によって、相続に関する取り扱いが見直された結果、配偶者居住権という権利が新たに設定出来るようになりました。
この配偶者居住権について、配偶者居住権の意義や相続税法上の取り扱いを解説していきます。

◆配偶者居住権とは

 

配偶者居住権とは、被相続人が生前住み続けていた自宅に配偶者が住んでいた場合、被相続人の死亡後にも引き続き配偶者が住み続ける事が出来る権利です。
配偶者が引き続き自宅に住む事は当たり前のように思えますが、被相続人の死亡後、何らかの原因により配偶者が自宅を巡りトラブルとなっても、配偶者が自宅に住む権利を保証するために創設された制度になります。
配偶者居住権は自然に得ることはできず、配偶者居住権の申請方法としては、被相続人の遺言書のほか、遺産分割協議により、相続人全員の合意を得ることや、家庭裁判所での調停や審判においても設定する事ができます。
そのため、相続人全員の合意を得ることができなかった場合には、配偶者が自宅に住む権利は与えられませんでした。
第三者に対抗する為には、配偶者居住権の設定が必要になってきます。
有効期間は、基本的に配偶者が亡くなるまで、もしくは遺産分割協議で定めた期間があれば当該期間まで効力が続きます。
配偶者居住権は、設定することによりいくつかデメリットもあるため、必ずしも設定する必要はありません。
配偶者居住権の消滅は、配偶者居住権を設定後に配偶者が亡くなってしまった場合に配偶者居住権が消滅することも理解しておく必要があります。

◆配偶者居住権には相続税の節税効果について

配偶者居住権を設定した場合、相続税の節税効果があるかどうかについては、後述するデメリットもあるため一概には言えませんが、1次相続、2次相続があった場合には相続税の負担が軽くなるケースがあります。
具体的な例を解説する前に、まずは1次相続と2次相続について説明し、その後に具体例を挙げます。
まず、1次相続とは、夫婦の片方が亡くなった場合です。
1次相続で相続人となった配偶者が亡くなる事を2次相続と言います。
例えば、父、母、子の3人家族である場合に、初めに父が亡くなった相続を1次相続と言い、その後、残された父の配偶者である母が亡くなった相続を2次相続と言います。
次に、配偶者居住権により節税となるケースについて具体例を挙げて解説していきたいと思います。
前提としては子供に持ち家がある場合としておりますが、持ち家の有無は関係ありません。
今回の相続により、最終的に子供に自宅が相続される事を前提としております。
まず前提条件として、被相続人の相続財産が1,000万円の自宅と1,000万円の現金があり、相続人となるのが配偶者と子供の2人と仮定します。
民法の改正により配偶者居住権が創設される前の相続税法の場合です。被相続人が亡くなった際に配偶者には1,000万円の自宅、子供には1,000万円の現金を相続したときは、それぞれに相続税が課税されます。(1次相続)
1次相続が終わり、残された配偶者が亡くなった後に、子供が1,000万円の自宅を相続すると相続税が課税されます。(2次相続)
しかし、民法改正後の新しい法律で配偶者が居住権、子供が所有権をそれぞれ相続した場合には、上述した計算が異なってきます。
1次相続の段階では、配偶者が居住権400万円と現金600万円、子が所有権600万円と現金400万円を相続したと仮定した場合、従来の不動産と現金を1,000万円ずつ相続した場合と大体同じくらいの相続税となります。
そして、2次相続が発生した場合、配偶者の死亡によって配偶者居住権は消滅するため、相続人である子供が新たに居住権を相続し、居住権に対する相続税が発生するという事はありません。
ただし、居住権以外の現預金などの相続財産が残っていた場合には、現預金などの相続によって相続税が発生する可能性はあります。
配偶者居住権を取得すれば、必ずしも相続税の税負担が減少するというものではありませんが、上記のような2次相続が発生した場合に不動産に対する相続税が課税されないというのがメリットの一つとして考えられます。

◆配偶者居住権で節税にならないケースとは

配偶者居住権を設定してある建物の場合、小規模宅地の特例が適用されないケースがあります。
具体的には、まず配偶者居住権が設定されている建物の場合、配偶者居住権、居住建物の所有権、敷地利用権、敷地所有権に分けて考えます。
小規模宅地の特例は土地に対するものであるため、敷地利用権、敷地所有権に対して適用されます。
よって配偶者居住権は建物に対して設定されるため、建物に対して小規模宅地の特例は適用されません。
配偶者居住権のメリットとしては、2次相続が発生した場合には相続税が課税されないなどのメリットが挙げられますが、デメリットとしては下記の内容が挙げられます。
・不動産の売却ができない
配偶者居住権とは、その不動産に住むことができる権利であり、不動産所有権のように不動産を売却できる権利はありません。
例えば配偶者居住権が設定されている不動産から、老人ホームなどへ転居した場合、誰も住んでいないからといって不動産を売却することができなくなります。
不動産所有権を持つ人が、配偶者居住権を設定された不動産を売却することは可能ですが、不動産の購入者は配偶者居住権が設定された不動産を購入した場合にはその不動産へ住むことができません。
配偶者居住権が問題となるのは、配偶者が認知症になった場合です。配偶者居住権の権利を放棄しなければ配偶者が生きている限り不動産に住むことも売却することもできず、認知症の配偶者に配偶者居住権の権利を放棄してもらうのも至難の業であることが大きなデメリットとなります。
・不動産所有者は税負担が大きい
固定資産税の負担者は、不動産所有者です。
配偶者居住権の取得者の場合、建物に対する固定資産税のみ負担し、土地に対する固定資産税は、不動産所有者が負担します。
不動産所有者は当該不動産に住むことができない上、土地に対する固定資産税を負担する必要があるので、不満に思うことがあるでしょう。
・配偶者の年齢によって手元資金が少なくなる
配偶者居住権は、居住権の存続年数(=平均余命年数が長ければ長いほど高くなる)で、配偶者居住権の価値が高まります。
配偶者居住権は、相続人である配偶者が居住できる権利に加えて、生活資金も取得する事が可能である事がメリットですが、配偶者の年齢が若い場合には、配偶者居住権の価値が相対的に高くなり、その結果、居住権以外に相続できる生活資金が少なくなってしまいます。
・法律上の配偶者のみ設定可能
近年は、法律上の婚姻関係を結ばずに、事実婚などする人も多くなっています。
配偶者居住権を設定するには、婚姻関係を結んでいる夫婦である必要があるため、事実婚の増えている近年では、配偶者居住権の設定が出来ない事もデメリットとして考えられます。

◆配偶者居住権の計算方法とは

配偶者居住権の計算方法は以下で解説する項目を把握していれば、自分でも計算することができます。
ここでは配偶者居住権の計算方法について解説していきます。
まず、配偶者居住権の計算方法は以下の算式となります。
①A=(耐用年数ー経過年数ー存続年数)÷(耐用年数ー経過年数)×存続年数に応じた法定利率による複利現価率
②配偶者居住権=建物の時価(相続税評価額)- ①
上記計算式により、配偶者居住権が算出されますが、それぞれの計算式に当てはめる用語について解説していきます。
・耐用年数について
耐用年数とは、建物を使用することが可能な期間です。
耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により、該当する建物の耐用年数を当てはめます。
・経過年数について
経過年数とは、配偶者居住権の設定されている建物が出来た年から現時点まで経過した年数です。
1年未満の期間がある場合には、6ヶ月未満は切り捨てし、6ヶ月以上は1年として経過年数を計算します。
・存続年数について
存続年数とは、配偶者居住権を設定されている不動産に配偶者があとどのくらいの期間、居住するかを把握する年数になります。
遺族と配偶者居住権の設定期間を取り決めている場合には、当該期間が存続年数となります。
・法定利率による複利現価率について
法定利率による複利現価率とは、「存続年数に応じた法定利率による複利原価率表」に該当する原価率を指します。
・時価(相続税評価額)について
建物の時価は、固定資産税評価額となります。
固定資産税評価額は、毎年5月頃に送られてくる固定資産税の課税明細書に記載されている建物の価格です。
用語の意味と数値が分かっていれば、配偶者居住権を自分でも計算する事が可能になります。

◆まとめ

以上が配偶者居住権に関する内容について、意義や計算方法などを解説しました。
配偶者居住権は自分自身でも計算することが出来ますが、確実に正しいものを計算したい場合などの具体的な内容については、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。